昼間になると
にこにこ笑ってるような
暖かい日差しがあたりいっぱいに
こぼれて
春はもうそこまで来ていると
告げてくれている
義母が倒れて二週間になる
このところのきびしい寒暖差が
老齢には響いたか
脳出血だった
行かない日だったので
悔いが残った
覚えて置け
という詩を書いた
*
覚えて置け
行かない日があった
一日だけ行かない日があった
覚えて置け
そんな日に、必ず
愛は倒れるのだ
*
コロナ禍なので、面会ができない。
ナースセンターに問い合わせると
名前は言えるように
なったとのこと、かおがみたい
今日は留守宅の
植木鉢の水遣りに行った。
テレビをつけると音量が大きくて飛び上がった
少女の頃には
「桜貝すみれ」というペンネームで
小説を書いたのよと前に打ち明けられたことがあった
噴き出しそうになった乙女な名前だけど
本名は「皿海すみこ」なのでまんざら
嘘っぱちでもなかった桜貝の
(ずいぶん耳が遠くなった――)
すみれさん、すみれさん、
すみれさん、すみれさん、
もうすぐ春の、すみれさん
お家に戻って、咲かせておくれ
(明るい春の縁側で――あははとわらう)
花の笑顔を、もう一度。
埼玉・飯能
宮尾節子
宮尾節子