昨日まで地球の夢を見ていた
ちょうど雨期がはじまり
一日中溺れるように雨の音ばかりきいていた
骨は真っ白で さらに透明でなくてはならない
(生きていればそうなる(さりさりと
今夜の新月の闇のなかを雨水が循環している
あのころ水の惑星は地球だった(眠りの岬をめぐり
はるかむかしの蜃気楼の都市の夢を見ていた
雨の匂いとか空気の震えとか
見えないものを受信している
ふと窓に目をあげると
窓に映る机上のガラスの花瓶さえ
前世のすがたを思い出そうとしている
どこかへ漕ぎ出そうとして
(さりとて花はなく、水は枯れはてて
雨につつまれると
電話の声は水の被膜におおわれて聞こえるという
昨日までの地球から届くあなたの声は
漂泊してすでに途切れがちだ(った
(衛星軌道(から地平線の(かなたに沈む(玻璃の浮舟
「いとはかなげなるものと明け暮れ見出だす小さな舟に乗りたまひて……」
水没した記憶のようにGPSは現在地を表示しない
そのとき過去の私がふいにマップに点灯する
福岡市 薬院
渡辺玄英
渡辺玄英