昼間の空気は知っている夏よりもさらに苦しい厚みを持っていたけれど、夜に鳴く虫は明らかに秋だと主張して到来を告げている。
大気の激しさに挟まれてうるわしい緑が自慢のアマガエルはすっかり皮膚を土気色にしてただただ微笑む中、私はどうしてもあの子の命に介入したくなって霧吹きで水を吹き付け凍らせたペットボトルを窓辺に置いていた。どれもこれもが恐らくは過不足であるのに、小さな命はそれを通過して、数週間ぶりにようやく降り出したまともな雨にひたることができた。
誰とも共にあることのない
密やかな時間が鮮やかにあって
にぎりしめた線香花火
トウモロコシをしゃりしゃりとほおばる音
フレッド・アステアと一緒に踏んだステップ
夕空に広がるたくさんのトンボ
それ以上のことなんてどうしたってないのに
向けられないまなざしと
解消されない期待を抱えている子どもが
ななめにだらけきった口元で
「別に、なんでもありません」と
何もかもある声で
放つのをくらう
大分・耶馬渓
藤倉めぐみ
藤倉めぐみ