3月13日(土)

一年続けた「空気の日記」が間も無く終わる
緊急事態宣言は延長されたし
楽しみをひた隠ししつつこっそりむさぼる
病の日々は変わらず続いているが
兎にも角にも私たちの一年は終わる
この一年の変化を考える
外に出るのに靴を履くように
外出時につけるようになったマスクや
コンビニやスーパーで息を隔てる透明なビニール
小銭の代わりの電子マネーやZoomのミーティングや
そうやってかしこく肌触りを無くしながら
日常は器用に続いている

今日は雨で
海に行くと
打ち上げられた魚をカラスが食っていた
腹に穴を開けられた魚を思うと哀れだったが
カラスを思えば今日を生き延びられたと安堵する
いよいよとなれば私だってきっと
カラスから魚を奪って食う
あるいはカラスの羽をむしってむさぼる
今はそれを誰かがやってくれる
丁寧に捌き血を抜いた
プラスチックに乗せられた
切り身や手羽のかたまりを
スーパーのカゴに入れるだけで
私はたやすく手に入れる
そうして野蛮や苦痛を
日々誰かに押し付けている

今日までの
日本の感染者の数は約4.4万人
そのうち死者は8,457人
これまで44万4千の病を誰かが必死に治療し
あるいは治療しようと奔走して
かなわなかった8,457の無念さに
目を背ける事も許されず
その人たちが向き合っている間に
私たちは詩を書いてきた
誰かが悪いはずだとか
誰かの努力が足りなかったとか
伝聞の切れ端をかき集めながら
せわしくキーボードを叩いてきた

十年前の一昨日
ちょうど東日本大震災が起こった
あの時も私たちは詩だけしか書けなかった
そうして十年経った今も
相変わらず詩だけしか書けていない
だったら次の十年も
私たちは詩だけを書いてゆくのだろうか
誰かに鳥や魚を捌かせて
スーパーで値札に文句をつけたり
見知らぬ人ばかりに病の治療をさせつつ
海で過酷をうたうのだろうか

きっとしかし
そうなってゆくのだろう
私たちは今後も
詩人をやめたりはしないのだろう

うずくまる傷みのもろさを持ち逃げて
持続に囲うのが詩なのだから
鞭打つ資本に忍従したりはしないから
私たちはこれからも書き続けてゆく
古り去るふるえを惜しむ私たちだから
裏返った思想に抗争し
大きいばかりの声に踏みしめられる
息の無数をこそ記すために
私たちはこれからも書き続ける
詩人できっとあり続けてゆく

神奈川県片瀬海岸・江の島
永方佑樹