8月5日(水)

  • N お疲れ様でした。
  • Y お疲れ様でした。
  • N なんとか無事終了しましたね。
  • Y 有り難うございました。
  • N 本番中、マスクをつけていない事注意されないで良かったですね。
  • Y そうですね、いつでも付けられるように横に置いておいたんですけど。
  • N 今日のパフォーマンスは、発話する口元の動きがキーになりますからね。
  • Y マスクができない分、口元だけのフェイスシールドも考えたんですが。
  • N 息で曇っちゃって見えなくなりますしね。
  • Y そうなんですよね。でもそれで今回、口元の動きが感情の重要な情報なのだと感じました。
  • N 口は喋る事や食べる事以外にも、感情の発露としての重要な役割がある?
  • Y はい。この間Fさんと話してる時に、食べるために一旦マスクを外したんですよ。そしたらFさんが急に安心した顔になって、理由を聞いたら、私がずっと怒ってるんだと思ってたみたいで。でもマスクを取ったら私がニコニコしてるから安心した、って言ってました。
  • N なるほど。目と口の表情は必ずしも一致しない、という事ですね。「目は口ほどにものを言う」というけど、実際は口の表情を備えて初めて目は語れるのかな。しかもマスクは目以外全て隠しますからね、鼻も顎も。目だけを孤立させると情報に乏しくて、時に乖離した印象を与えてしまうんですね。
  • Y そうだと思います。
  • N 先程終了した我々のパフォーマンスで、Yさんが今回ご企画された五つのプログラムが全て終わりましたが、どうでしょう?今回、我々はコロナ禍の最中で、どうしても常にコロナの状況を注視せざるを得なかった面もありつつ、コロナ禍というこれまでとはまったく違った環境だからこそ可能になる事もあったのかと思いますが。
  • Y そうですね。今回コロナ対策の為、全部無観客での配信公演となったのですが、逆に配信という形でなかったら、こんなに短期間で五パターンのパフォーマンスをしようとは思わなかったし、演劇以外のアーティストの方々と一緒にやろうとは思わなかったと思います。あと、今回の企画の基本コンセプトである、ツイッターでのハッシュタグ募集も、自粛期間中にうちに閉じこもりSNSを普段より多く眺めていた、その時に考えた事が影響したと思います。
  • N なるほど。実際コロナ禍のせいで、劇場が通常の演目の上演が不可能になってしまったからこそ、我々は屋上だったり外廊下だったり、この間なんかは客席をすべてばらしたりして、普段の使い方とは全く違う使い方で「場」を使用出来ました。そうやって様々な場所から配信が出来たのも、現在のこの「からっぽの劇場」の状態だからこそですし、既成の形に据えられていた「場」が、行為に合わせて自在に設えを変える事で新たな姿を我々に見せ、不可能を可能にしてくれた気がします。
  • Y そうですね。こういう状況でなければ、劇場側も劇場祭も、こういう形式をやろうとも思わなかったと思います。
  • N 今日やったパフォーマンスのテーマじゃないけど、我々はこれまでも常時何らかの不自由さ、規定された規制みたいな中で常に何が出来るのかを探している。でも現在の不自由さは、コロナ禍以前のそれとは全く異なる。だからこそ、私達は今まで考えなかった事を考え、やろうとしなかった事をやろうとする、その結果出来なかった事もあれば出来た事もある、という事ですね。
  • Y 今出来る中で最良の選択肢を探していきたいな、と思いますね。
  • N ですね。いずれにせよ、今日で無事に全部終わって本当に良かったです。有り難うございました
  • Y 有り難うございました。

※本日8月5日に吉祥寺シアターより配信を行った、「からっぽの劇場祭」でのパフォーマンス公演 『(in)visible voices-目にみえない、みえる声たち-』終演後の、楽屋でのYとの会話より

吉祥寺・吉祥寺シアター
永方佑樹