3月1日(月)

詰めものがとれた虫歯か
あったはずのもの、あるべきところが、
がらんどう
傷んだ神経のなま臭さよ
黒ずんだ底には、ミュータンス菌がはびこって
喰べカスの酸っぱい舌が
エナメル質のコーティングを溶かし、
象牙の白壁を崩し、
剥き出しにするのだった、
穴だらけのコンクリートを

行き先がきえた給水管と排水管、
照らす当てのない電球と蛍光灯、
温める相手のいない空調の吹出し口、
それらは
ただ、ぶら下がる
ただ、揺れている
天井板が壊されたもぬけの上部から
半身不随みたいに

不安と不安定のアートだよ
作意のないホンモノだよ

もう何日もそのままだから
やりかけの工事ではない
完成なのだ、
死んでなお
じぶんを持てあます電線のたわみの、

いまや
マンション一階のはんぶんが、

半年前までは美容院だった
年末までは整体治療院だった
あの奥の工房がいつ消えたか、気付きもしなかった

神奈川・横浜
新井高子