夕方
髪を切って
その帰りに冷泉公園に立ち寄った
たしか1年前にも見た
桜が咲いていた
満開を数日過ぎているから
花びらは少し散り始めており
幹はその輪郭をあらわにしつつある
そういえばずっと前に観た
〈時〉がテーマのSF映画で
登場人物が「我々が経験しているのはtempoだ」
と言っていて、はっとした
tempoは、「ある速さ、リズム、調子」を示す音楽に関する用語である
ただ漫然と過ぎる抽象的な「時間」とは異なり、
濃淡があり、緩急があり、
それゆえ私たちに経験として、または記憶として残るものである
眼前の光景に対して
そして
これまでやこれからの
あらゆる経験に対して
あらためてわななく感情※とは
いったいどういうものになるだろう
公園で
マスクを外し
花びらに
夜の空気に
わたしは呼吸を
重ね合わせて
※犬塚堯『河畔の書』収録作品「石油」より引用
福岡・博多
石松佳
石松佳