3月30日(火)

夕方
髪を切って
その帰りに冷泉公園に立ち寄った
たしか1年前にも見た
桜が咲いていた
満開を数日過ぎているから
花びらは少し散り始めており
幹はその輪郭をあらわにしつつある

そういえばずっと前に観た
〈時〉がテーマのSF映画で
登場人物が「我々が経験しているのはtempoだ」
と言っていて、はっとした
tempoは、「ある速さ、リズム、調子」を示す音楽に関する用語である
ただ漫然と過ぎる抽象的な「時間」とは異なり、
濃淡があり、緩急があり、
それゆえ私たちに経験として、または記憶として残るものである

眼前の光景に対して
そして
これまでやこれからの
あらゆる経験に対して
あらためてわななく感情※とは
いったいどういうものになるだろう

公園で
マスクを外し
花びらに
夜の空気に
わたしは呼吸を
重ね合わせて

※犬塚堯『河畔の書』収録作品「石油」より引用

福岡・博多
石松佳