3月17日(水)

深夜に山本と異常論文についての最終調整。翌朝、異常論文が完成。夜通し書いていた山本が樋口さんに原稿を送る。
歯を磨いて、新宿へ。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を観る。意外な結末。門前仲町へ。Yさんとカレーを食べる。お互いに総柄のパンツを履いて来て笑う。バナナの葉の包みを開けて、ライスのまわりに敷き詰められた具を混ぜながら食べる。IさんやSさん、Aさんの近況についての話をする。店内のディスプレイに宇宙空間を背景にした仏像の動画が流れていて、味わい深い気持ちになる。都営大江戸線に乗る。車内の音が大きすぎてYさんの声が聞き取れず、耳だけを顔に近づけると、Yさんが大笑いする。
――(Yさん)所作が完全にジジイなのよ。
初台まで移動して、千葉正也個展を観る。会場の壁に穴を開けて張り巡らされた木製の細い通路のなかに、おが屑のようなものが敷き詰められている。壁から自立して、あちこちの方を向いている絵を眺めているうちに、通路の上でおが屑を堀りながら移動している亀を見つける。Yさん曰く、今日は前に観にきたときよりも元気らしい。亀は赤いランプの近くを行ったり来たりして、ときどき思い出したように地面を掘る。亀の様子を監視するライブ映像が観られるQRコードをモチーフにした絵を見つける。
ギャラリーショップで図録を買いに行くと、入り口でIさんと会う。Sさんと個展を観に来たという。
――(Yさん)さっきIの話してたからびっくりした。引き寄せてしまった……。
――(作者)そのジャケット、KikoとAsicsのやつですか。
――(Iさん)そうなんですよ。
Sさんが向こうからこちらに向かって歩いてくる。はじめはだれがだれなのかわからなかったらしく、足取りが左右に大きくぶれながら近づいてくる。下の階におりて、喫茶店で話をする。
――(Y)亀って美術館のなか歩かせていいの?
――(I)いいんじゃないかな。それより植物とかがむずかしかったとおもう。黴とか虫とか連れてきちゃうから。
解散して、下北沢へ。同期と待ち合わせをして、今回も現実の「加工」を行うための話し合い。塩麹に漬けた豚バラ肉をアボカドといっしょに炒めたものと、醤油で茹でたブリ。エヴァの話をして、あまり乗り気でなかった同期が、結末を聞いて興味を示す。テレビ版と旧劇場版、新劇場版を観て、来週までに「観られる体」をつくることにするという。
――(作者)今日どうする?
――(同期)仮説を提唱したいんだけど、散歩すれば思いつくとおもう。
酒を買って、行き先を決めずに散歩をする。何駅か過ぎて、住宅街が続く。しだいに家のスケールが大きくなってきたので、――資本主義を見せつけられているね、というと、同期がうなずく。とりわけ大きな家を見つけたので、――これこそが資本主義だ、といいながら表札を探すと、コートジボワールの大使館だった。道なりに進んでいくうちに、見覚えのある道に入る。
――(作者)近くに詩とダンスのミュージアムがあるな。
――(同期)何?
――野村(喜和夫)さんの家を美術館にしたやつ。
――行こうぜ!
三十分ほど歩いていると、詩とダンスのミュージアムを見つける。詩の朗読をしながら、日付が変わるまで散歩を続行。次の日が仕事なので、タクシーで同期の家まで帰る。

東京・下北沢
鈴木一平