3月6日(土)

美しい350頁の詩集ができあがるとともに
実家のリフォーム工事も何とか終わり
このタイミングで
20年ぶりに家族4人で引っ越すこととなった
自転車で10分くらい南の街へ

とんでもない数の段ボール箱
二軒分のあれやこれやが詰まっている
もともとあった書籍とそれ以外
西荻から搬入された書籍とそれ以外
部屋がまるまる二つ
天井まで埋まっている

その家をそーっと抜け出して
二人の娘をまた西荻に送り届ける
フレンドリーな暗いカレー屋のマスター
どろっとしたあまり辛くないバターチキンができるまで
サラダとともに白いラッシーを細い細いストローで吸いこみながら
ひたすら待つとしよう

そんな贅沢な時間が
この街にはあった
ぼくのモラトリアム時代、さようならさようなら
懐かしの西荻台マンションよ、さようならさようなら
風景がどんどん加速して遠くなっていく
教会の先には美容室
レンタカー屋ラーメン屋絵本の店
プラタナス並木の甘い香りがあった
洋品屋古道具屋そして古本屋のある街
何冊の画集をぼくはここで求めただろう

ばいばーい
とアジア系のマスターに送られて
いつもの坂をあがって駅へと急ぐ
ばいばーい、また来てね
どうぞ元気で、また会う日まで

うちの緑の椅子が
もう古道具屋の店先に出ている

視線がジモティーから
観光客のそれに
変わるころ
ぼくは
ようやく西荻窪の駅についた

さあ、ぼくよぼくよ
コーヒーを買って総武線に乗ろう

東京・西荻窪
田中庸介