2月15日(月)

洗面所の透かしガラスから
ウグイス色の鳥が梅を啄んでいるのを見た

ずっと花びらを啄んでいると思っていたけれど
芯にくちばしをよせて蜜を吸っていた

ウグイス色の鳥はウグイスではなくメジロだった
ウグイスはもっと薄茶色の鳥で
ウグイス色はメジロのものだった

一昨日、大きな揺れが福島を中心に起こって
あちらこちらにぽつぽつと声をかけた

そういえば10年前には声をかけられる側だったのに
今は別の岸にいる
どの岸にも心は置いておきたくて
書くということも
ひとかけらの心を置いていくことのように思う

そういえば昨年はオリンピックをやる予定で
そういえば今年は東日本大震災から10年で
そういえばオリンピックは東日本大震災の復興という名目で
ゆがみにゆがんで埋もれていった

東京で一人
家のテレビをつけて見た
あの赤さを
あれはなんなのだろうと思っているし
まだ何も許していない

日々のひずみが皮膚のひずみに変わって
皮膚という皮膚にありったけ爪を立てて
神話から遠ざかって白ませた

震えが届けば
どこだって地続きなのだから
等しくのしかかる
何も何も何も許してはいないと
ガジリガジリと歯を立てている

見つめるという時間が私にはある

私と同じ髪型をした10歳のあの子が
ピンクのはさみを手首に当てて
ちりちりと皮膚を削ろうとしていた

「だめだよ、そんなことしたら悲しいよ」
「なんで。私は悲しくないよ」
「あなたがあなたを大事にしなかったら私が悲しいんだよ」

そんなことを言って
とても消極的にかるた遊びをした

大分・耶馬溪
藤倉めぐみ