2月13日(土)

今日のホームルームでは学級委員長を決めます。学級委員長とは、このクラスの代表、みなさんの代表ですから、みなさんと議論をして決めていきたいと思います。どんな人が学級委員長にふさわしいと思いますか。
教師からの問いかけに教室は静まりかえった。自らが指されることを避けたい一心の生徒たちは一様に目を伏せている。その様子をにやにやしながら教師が眺めている。その顔が腹立たしかった。廊下側、いちばん後ろの席にいた私は、手を挙げて発言した。
女子がいいと思います。
なぜそんなことを言ったのだろう。学級委員長の仕事とは、クラスの代表とは名ばかりで、
教師からの頼まれごとを引き受けたり、学校行事で生じる面倒ごとを差配したりといった雑務が大半である。そんなつまらない役割は女に押し付けてしまえばいいと思ったから? いや当時の私にそこまで巡らせた考えがあったはずはなく、ただ単に、誰かが何かを言わなければ議論が進まないと思ったから。仮に自分の発言によって候補が女子に絞られてしまえば、自分が選ばれることもなくなるだろう。その程度の思惑だったのだろう。私の発言の直後、窓側のいちばん前に座っていた西村さんが、私の方を振り返ってぎろりと睨み、それから手を挙げた。
男子がいいと思います。
私と西村さんの発言をきっかけに、学級委員長にふさわしいのは女子か、男子か、喧々諤々の議論が巻き起こった、はずもなく、教室は再び静まりかえった。ここまでに出揃った意見はただ二つ。女子がいい。男子がいい。何も進展していない。しばし重い沈黙の時間が流れたのち、私の二つ前の席にいる湯本くんがおそるおそる手を挙げた。今度はなんだ。みんなが湯本くんに注目した。
ぼくがやります。ぼくがやってもいいでしょうか。
教室中が無言の歓喜の声で満たされた。湯本くんすごい! 是非湯本くんを学級委員長に! このクラスをまとめられるのは湯本くんしかいない!
こうして無事に学級委員長は湯本くんに決まり、その後、どういう経緯だったかは忘れたが、私と西村さんが副委員長を務めることになった。

以上は二〇年以上前のエピソードだが、ふと思い出したので書いておく。

東京・調布
山田亮太