2月6日(土)

週末の夜だけれど
家の前の通りを歩くひとがいない
車の音もしない
外の世界が存在しないかのように

きょうの午後は
窓をひらいて
本や手紙の整理をしていた

なんど整理しても
数十年間捨てられないものは
自分の内側にあるのか
外側にあるのか もうわからない

幼いころ
山道を歩いたとき
けものや けものめいたものたちが
招く場所へは入ってはいけないよ、と言われた
それはわたしたちの外の世界だから

でも
けものや けものめいたものたちから見たら
わたしこそが 恐ろしい外の世界だっただろう

もう一年ものあいだ
ずっと内にこもって
仕事をし 食事をし 生きている
けれど
外を歩く人から眺めれば わたしは
少し距離をとらなくてはならない
外の世界の人でしかない

きょう
ひらいた窓から
昨日よりもあたたかい風が入ってきた
この風はどこまでゆくのだろう

わたしの内と外を溶かす
明るい風は
玄関を通りぬけ
けものや けものめいたものたちの山へと
流れてゆけばいい

もう数十年ものあいだ
わたしの内側でひそかに眠っていた彼らに
あたらしい春を告げるように

東京・杉並
峯澤典子