痛みなく上滑る今日は曇天で
手にするもの目にするものがつるつると滑っていく
制限をかけて素直に減っているらしき数字を追っても
ぽたぽたと滴っていく
そういえば数字ばかりを観察する習慣ができた
これはもしかしたら
悲しさなんじゃないだろうか
悲しさは
悲しいと思う私がいて
悲しさになってしまうのだけれど
今日の私は軽やかさでも楽しさでもなく
悲しさを選んでいるのだと思う
曇天を見上げて歩けば
頭の重みに沈んで湾曲していた首が驚いて
歩くごとに反対側の軌道になじんでいく
涙がこぼれないことよりも
知らない筋道に気づくこと
解放をたぐることの方が
ずっと大事だ
空の雨は止んでも
山が水を含ませて
湧き出てくること
湿り気のある土を
踏みかためること
何にもない場所にある何でもあることが
今日もまた囁いているのに
遠ざかる約束の音が
ずっと大きい
大分・耶馬溪
藤倉めぐみ
藤倉めぐみ