1月15日(金)

必要なものだけを手早く買う
ひとと会わずにメールですます
朝から顔をマスクで覆う
そんな暮らしが長くつづけば 息ぐるしい

だからきょうは花屋に寄った
ことしも春の花が並びはじめていたから
そういえば もう何か月も
だれかのために
花束を作ってもらっていない

以前 チューリップがいちばん好き と言ったひとがいた
この花は家に持ち帰ったあとも
太陽をさがして 茎をのばしつづけ
明るくひらき 日暮れには眠り
そうするうちに
花びらが零れ落ちそうなほどに おおきくひらきはじめ
からだが色をなくし 透きとおるまで
たっぷりとひかりを吸い
ぞんぶんに生きたあと
いちどに散ってゆく

花びらが燃えあがるようにひらききるまでを
見守るこちらも
きのう きょう あした あさって と
移り変わる姿をじゅうぶんに味わいながら
終わりにむかって 心をすこしずつ整えてゆく
散ることもその花の豊かさ と信じられるように

年が明けて
緊急事態宣言がふたたび発令されたあと
子どもの通う小学校でも
この週末に予定されていたマラソン大会の中止が決まった

中止が知らされた日
帰宅した子は
たのしみにしてたのに とだけ言って
だまってしまった

去年の夏からこの日のために朝と夜に走る練習をしていた
ともだちのMくんは
帰り道 泣いていたという

じゅうぶんに咲ききる前に
とつぜん むしられたら
花だって
いたい
つらい
かなしい
さびしい
くやしい だろう
ちぎられた茎からは
見えない血が流れているかもしれない

ちいさなひとたちが
きゅうにむしられた花びらのために
泣けないひとのかわりに
泣いてくれたから

わたしは思い出す
だまったままで
泣かないままで
失った花のことを忘れたふりをした
たくさんの夜を

そして
おおきくひらききったあとの花びらを
見送った朝の
すがすがしいほどの
かなしいうつくしさを

東京・杉並
峯澤典子