12月16日(水)

「聞こえましたか?
 …あなたを死刑に処する
 …聞こえましたか?」

はい 聞こえました
と答えて証言台からゆっくりと席に戻りました

「もうここにくることは二度とありません
あなたは揺れる麦畑の案山子 あなたは陽の当る白いだけの切り紙
階段のない二階から 
やがて底なしの青空へ飛ぶのです無限の」

でも、ぼくの机にはむかしからいつも
逃げなさい 生きなさい、と落書きされているのです
だから保健室のあまのセンセに相談してもいいですか

「いいえ もうここに二度ときてはなりません
あなたと 馘 手首 踝 
あなたのものでない長くてつややかな黒髪がゆるやかに渦巻いています
ばらばらに彼女たちが植えられた鉢やクーラーボックスがある
あなたのためだけの遠いお部屋
そこへ行くのですよ」

(私に気づいてくれたのは彼だけでした
(私に気づいてくれたのは彼だけでした
(私に気づいてくれたのは彼だけでした
(これまでだれ一人私に気づかなかったのに
(私に気づいてくれたのは彼だけでした
ぼくが殺してあげる ぼくが殺してあげるぼくが殺してあげる
ぼくが殺してあげるよぼくが殺してあげるぼくが殺してあげる
ちからが抜けたあと ふと視線をあげました
空があることに初めて気づいたのはそのときだった
(空には見たことのない形の雲がありました

「さようなら。
次の学校へ行くのです。どこでもないところへ。
句読点を忘れてはなりません。
あなたのロッカーに
隠されていた青空の欠片は不要でした。
誰にとっても不要だから。」

ぼくは揺れるだけの案山子
いくら切られても白いだけの切り紙

福岡・薬院
渡辺玄英