12月12日(土)

二番弟子でございます。持ち前の色白の肌に映える真紅の着物をアイコンにしております。この難しい色を品良く着こなす私のセンスったら。弟子うちで着るものに気遣うのも、おかみさんの服飾をほめる孝行ができるのも私だけです。

月に二度、師匠のお宅に伺って朝ご飯をいただきます。芸人の現場で風邪っ引きは犯罪ですから、念入りな手洗いは入門時からの躾です。今さらハッピバースディ2回分でもない。今朝のおかずは焼き鮭と春菊の白和えと湯豆腐。

歳末のこの時期、師匠のお宅にはたくさんの到来物があります。酒と米。佃煮詰合せ。菓子折。季節の果物。積み上がるさまは笠地蔵の勝手口さながら。これらはほぼ弟子が腹におさめます。目上の方の指令のままに。それが伝統芸能。

おかみさんは私たちを見るたびに必ず太ったとか痩せたとか言います。時下の体調をお気遣いただいてのことと承りますが、多少、そう。ははは。うざ。食と天気が誰にも共通する当り障りのない話題だと考えてるのは年寄りだけです。

おかみさんは弟子の食欲を歓迎してくれる反面、見た目が大事な人気商売ゆえダイエットせねばという私たちの気持ちにも理解はある。よって食わせたい、でも食わせたくないという二つの間でご自身も引き裂かれているのだそう。

今年は高座の本数が激減したので、在宅中は新作をたくさん書きました。弟子の中で古典一辺倒でないのは私だけ。かつてはヒップホップなんかに手を染めたりもしたので、おかみさんとは創作という点で分ち合えるものがあります。

ともに大好物の都市伝説で話がはずみ、気づけば三時間を過ごしていたこともありました。入門初日に着てった上着の黄緑色がおかみさんの超贔屓の色だったとかもあるし、でもカードの暗証番号まで偶然同じじゃなくていいと思う。

最近書かれてる詩の中で、私たち弟子はトカゲなんだそうで。おかみさん爬虫類は苦手じゃなかったっけ。託して言いたいことでもあんのか。正直、歌詞じゃない詩は誰のも読まないしわかんねえ。芸の肥やしとかにも出来なさそう。

化けるとしたらきみが抜き手を切るだろうね。おかみさんにはそう言われています。化ける、は、いい意味で芸が生まれ変わることを指します。達者というのと違う私のようなタイプはある時期突然の変容をするのです。ああ化けたい。

真赤な着物は四年前の二ツ目昇進の折に誂えました。そう、クリスマスの色でもあります。今年は硝子のコップの内側から眺めている人の世の、そこかしこに点滅し続ける警告灯の色。そして鮮血、私の中にいつか目覚める鬼の色です。

東京・目黒
覚 和歌子