12月10日(木)

Wintering Out
とは、アイルランドの詩人シェイマス・ヒーニーの詩集のタイトルである
誰かは知らないが
この英語を「冬を生き抜く」と訳したのはとても美しいことだと思った

過酷さならば夏も変わらないのだろうが
冬にはどこか「生き抜く」という感覚がある
そういう気がする

冬の空気は好きだ
特に晴れた朝の張り詰めた空気の膜に触れながら歩く
ひとがいないところでマスクを外し
面白半分に白い息を吐いたりする
吸い込むとその冷たさで
わたしの内側にある
肺の形が分かるほど新鮮だ

わたしは子どもの頃から
しっかりとした誠実な人間よりも
中身のない軽薄で身軽な人間になりたいと思っているのだが
冬の空気を思いっきり吸い込むと
人間は空っぽの容器であることを
感じるのである(確か『空気人形』という映画があったはずだ、今度借りてみよう)

ふわり、と揺れながら
空気のわたしたちは
それでも
セーターやコートを着て
冬を生き抜くのである

   死の前に生はあるのだろうか
   これは繁華街の街の壁にチョークで書かれていた文句
   苦痛に耐える能力 いつもでも変わらぬ悲哀 質素な飲み食い
   僕たちは再びささやかな運命を抱きしめる

     シェイマス・ヒーニー『冬を生き抜く』「デイヴィッド・ハモンドとマイケル・ロングリーに捧ぐ」より

参考文献
シェイマス・ヒーニー 『シェイマス・ヒーニー全詩集 1966〜1991』 村田辰夫・坂本完春・杉野徹・薬師川虹一訳 国文社 1995年

福岡・博多
石松佳