11月26日(木)

近所の小学6年生が
姿を消したという町内放送が流れた
男の子だ
一昨日の夜中に出て行ったらしい
家族はどんなに
心配だろうか
「となりの地獄」
という言葉が浮かんだ

半年前は一様に不安だったのだ
感染者数という手がかりに
不安が一様だった

今日はひどい暑さですね
そうですね、今日も50人超えてますね
そうですね、はやくおさまりませんかね

いまは
数字の話をしなくなった
不安は不安
でもひとりずつ
別々の顔をもった
不安になったのではないか


横浜にいて
ずいぶん飲んで帰る日だ
馬車道の終電間際で
ラフマニノフを一心に弾いている人がいて
立って聴いた
他に誰もいない
今日一日が
救われるような気がする
誰でも弾いてよいピアノには
アルコールのスプレーがあって
除菌して握手してもらった
詩でも同じことができるかな
ああもう今日はアルコール消毒はおしまいにしたいな
小さな感情が囁き合っている
音楽のおかげで
マスクをしていることを忘れていた
私はずっと
今日のこのことを
覚えているだろう

吉川くん
見つかったらしい
吉川くんは近所の小6
スープ飲んだかな
まずは風呂か
泣いたかな
よかった

東京・世田谷
松田朋春