10月19日(月)

家族が眠っているあいだに
コーヒーをいれて
パソコンをひらいた
部屋の空気が
昨日よりつめたい
おとといか 三日前の朝にも
救急車のサイレンを聞いた気がする

そのときも ここから遠くない場所で
サイレンの音は止まった
向かいのマンションだろうか
それとも

生まれたときから
数えきれないくらい
耳にしているはずなのに
慣れることはない音がある

メールを送ったあと
混んだバスで
混んだ駅まで行き
混んだ改札を抜け
ひどく混んだ電車に乗る

春、夏、秋、と
くりかえされる
カンセン、という
ひとつの音に
わたしはもう
驚かなくなっているのだろうか

ほんとうは少しも慣れていないことを
見せないことに
慣れただけなのだろうか

ひさしぶりに降りた駅
一瞬 マスクをはずして
風のつめたさを吸いこむ
大通りから
救急車の音がかすかに聞こえる
でも 姿は見えない
人も車も 止まることなく流れてゆく

きっと、だいじょうぶ
それとも

くりかえされる
空耳の
サイレンのなかを
わたしもいまは流れてゆく

東京・杉並
峯澤典子