からだの左がわに湧き水の気配がする
1メートル半ほどの龍がいるようだ
数日前に歩いた関西の山深い村では
橋に窟に空にまで
水神の守護がしるされていて
マスクをあごに引っかけた人たちは
山伏とインバウンドが減ってねと
ほがらかに嘆いた
まっすぐに天地をつなぐ木々が
途切れない水音をささえて
透んだ気をとどまらずにめぐらせて
そこから龍はついてきた
わたしの詩となって
玄関の引き戸から小路へ
わたしの歩幅に合わせて
身がゆるく蛇行すると
金木犀の匂いのなかに
冷たい川すじがとおっていく
西洋では人をおびやかす役まわりの龍
数日で打ち負かしたという老勇者が
タラップをおりた
BGMのマントをまとって
半月前からにぎやかになった壁のカレンダー
男たちはヒトの指で手帖をめくる
わたしによりそう龍の気配に
ときどき目を泳がせながら
東京・目黒
覚 和歌子
覚 和歌子