10月7 日(水)

からだの左がわに湧き水の気配がする
1メートル半ほどの龍がいるようだ

数日前に歩いた関西の山深い村では
橋に窟に空にまで
水神の守護がしるされていて
マスクをあごに引っかけた人たちは
山伏とインバウンドが減ってねと
ほがらかに嘆いた
まっすぐに天地をつなぐ木々が
途切れない水音をささえて
透んだ気をとどまらずにめぐらせて

そこから龍はついてきた
わたしの詩となって 

玄関の引き戸から小路へ
わたしの歩幅に合わせて
身がゆるく蛇行すると
金木犀の匂いのなかに
冷たい川すじがとおっていく

西洋では人をおびやかす役まわりの龍
数日で打ち負かしたという老勇者が
タラップをおりた
BGMのマントをまとって

半月前からにぎやかになった壁のカレンダー
男たちはヒトの指で手帖をめくる

わたしによりそう龍の気配に
ときどき目を泳がせながら

東京・目黒
覚 和歌子