9月19日(土)

深夜三時におきる
窓をまず開けて星をたしかめる(月はみえないまだ月齢二日
南東にひときわ明るく輝く星があって
あそこから地球を見ている人
のことを想像する
(ここからは見えないが木星は射手座付近を順行しているらしい

ぼくが窓辺に立つといつのまにか
猫がよこに坐って
やはり外を見ている
じっと耳をすまして闇の向こうの気配を観測している
もう秋の虫が鳴いているけれど
ぼくには聞こえないものが猫には聞こえているのかもしれない

(今週から授業が始まり(でも遠隔なので(学生たちはホントにいるのか?
(観測はできるが(ホントにいるのか? きみたちは

目に見える夜空も星も虫たちも
本当にそこにあるものなのか確かめようがない
星は輝くだけ 虫は鳴くだけ
(むろんそれでもかまわないが(見えない木星が今も刻々と順行している
目に見えるものさえ不確かだとしたら
ぼくはどれほどの確かさでここで夜空を見上げているのか
ここで夜空を見上げているぼくの心は誰からも観測されはしない

(そういえばぼくは地球という惑星をじかに見たことがない
星が星であり星でない
虫の音が虫の音であり虫の音でない
ように ぼくはぼくでありぼくではないとしたら

いつのまにか
猫は瞑目している
ちいさなスフィンクス

福岡市・薬院
渡辺玄英