こめかみの内がわを信号が途切れない
耳鳴りより淡い血流の音を知ったのはいつだろう
この音が聴きたくて山に来てしまう
夏は消えながらまだそこにいて 首すじにはうっすらと汗をかく
ときどき林道を通り過ぎる車は
遠くからきてまた遠のく波の音
からだの重みでたわむキャンパス地が舟のかたちになって
東京はもういいな と思った
大昔はじけたときから宇宙は無口だった
カリフォルニアも火星になったのだから
ようやくみんなかえるところを思い出せるだろう
やわらかくしずまる自分を聴いている
大切な人とトカゲたちが待っているのでなければ
東京は もういい
八ヶ岳
覚 和歌子
覚 和歌子