7月22日(水)

感染者数がふたたび増え
さまざまな予定や思いがずれはじめた街で
ずれた時間と時間のあいだに
映画館に入った

わたしの席は一番後ろの列の右端
前の列の左端に
マスクをつけた白髪のひとが座った
わたしたちの目の前には誰もいない

観客はふたりだけ、の上映は
学生のとき以来だ
そのときは
途中から友人は眠ったため
一本の映画を最後まで観たのは
わたしと映写機のそばにいるひとだけだった

上映のあと 部屋のあかりをつけたひとは
つい寝てしまった、と笑う友人に
ときどき眠りながら観るのも楽しいものです、と言った

今日の
前列の白髪のひとも
少しうつむいて
ひそかに
眠っているのかもしれない

とまる と すすむ をくりかえし
またふりだしにもどっては すすむ
そんな歩行にも慣れてきた
と思っていた

けれど 数日前に
予定がまだ立てられないことをあるひとに伝えたとき
いいよ あわてないで
だって わたしたち 疲れているよね
とメールが返ってきた

あなたでもなく
わたしでもなく
わたしたち
そう
わたしたち 疲れているんだ

だから
マスクをつけたまま
椅子に深くこしかけて
眠ってもいい

いま
スクリーンの前の
やさしい暗がりのなかで眠るのは
あなたでもなく
わたしでもなく
わたしたち

せめて
まだ降りつづく
雨と雨のあいだ だけでも

東京・吉祥寺
峯澤典子