6月18日(木)

福岡に父を見舞う。入居している施設はいまだに家族といえども外部の者は訪問禁止なので、父が病院の外来検診に出かける時が唯一会うことのできるチャンスである。空港から(感染を避けるべく)自転車で施設まで駆けつけ、一緒にタクシーに乗り込んで病院へ行き、仲良く並んで熱を測られて、まずは採血と採尿から。検査結果が出るのに時間がかかってすみません、と看護師は詫びるのだが、むしろその方が親子二人でのんびりコーヒーなど啜れて有難いのだ。小一時間ほど経って、主治医の手が注意深く父の腹部をまさぐり、痛みは?と問うその声を完全に鼓膜がなくなっている耳元に口を押し付けるようにして僕が伝えると、父は短く「いや」と答えた。隣の薬局で大量の薬を分包してもらい、再びタクシーを呼んで施設まで戻ってその入口でお別れ。再び自転車に跨って、近所のスーパーでブドウを買ってきて施設の人に預けてから、炎天下空港へ。

君は思いきり吹き出してしまう
憑かれたように感染者と死者の数を数えつづける
定時のNHKニュースを聞いて 君の口から
吐き出された飛沫が

ゼウスの隠れた雲みたいに近づいてきて
僕の顔に黄金の夕立ちのように降りかかる……と思いきや
ぴたりと宙で静止するのさ
いまやどこのレジにも窓口にも垂れかかる透明なビニールカーテン!

いつからそこにあったのだろう?
表面は乾いているのに濡れたような光沢を帯びている
垂直にそそり立った湖水
それが不意に波立って君は危うく溺れかける

ごめん、うっかり後ろのドアを開けたんだ
滑走路の端の柵の上に
張り巡らされた鉄条網のトゲが真昼の星々みたいに輝いているよ
真新しいドローン禁止の看板が

引き止めるふりをしながらこっそり片目で唆してくる
あの空の青の裏側でなら
好きなだけ釣り糸を垂れていられるって
一瞬のチヌのアタリにこそ永遠は宿っていたのだと

なのに君は、AEONから買って来た巨峰の房を差し出したまま
ビニールの向こうに突っ立っているね
必死で目をつむって……マジすか、
念力で僕の口中にその果肉を送りこもうだなんて?

福岡市東区にて
四元康祐