6月17日(水)

高座は楽しいなあ
ベランダで伸びをしていた鰐がつぶやいた
麻に変わった襦袢をたたみながら 青い蜥蜴がうれしそうにする
指先の球を 陽にみちみちさせて

寄席が再開しても 忙しさにはほど遠く
男たちは 爬虫類とヒトを往き来している

鉢植えの時計草が 日にひとつずつ咲く
四つ目が咲いて
近所から惣領弟子が朝ごはんを食べに来る (それは半月の一度のしきたり)
すでに蜥蜴でやってくるあたり 師匠を心得て

おかみさんブルーインパルス見ましたか
綺麗だった 空飛ぶものはずるいんだよ
つい愛でちゃいますね 意味そっちのけに
猫とおんなじだね
北を怒らせたビラって 何書いてあったんですかね
詩だったんだよ

銀の蜥蜴は 青よりふたまわり肉が厚い
みっしり詰まった声で 失われた高座をとりかえす
散歩させながら稽古してると息子がふてくされちゃって
おさんどんの合間に配信ライブって切り替え困難じゃないですか

12 年かけて 個性のような上澄みを洗い晒したあと
本性だけが残って 輪郭をつくって
いくつかのトロフィーを 背中のいぼいぼに積み上げて
縦書きの末尾に連なる きみ

じゃ行きます 幼稚園、短縮営業なんで迎えに
一緒に出かけようか
戻りつつある日常に逆らって 私も山に入る
蜥蜴たちの膚は
明日からの雨が濡らしてくれる

八ヶ岳
覚 和歌子