6月6日(土)

雨の月がはじまり
夏の薄いカーテン越しに
登校する子どもたちの声が聞こえるようになった朝
しばらく閉まっていた花屋を覗いた

ひさしぶりに目にする
さまざまな色から
赤でもピンクでも紫でもなく
赤でもピンクでも紫でもある花をえらんだ

陰 陽
白 黒
必要 不要
緊急 不急

一輪の花でさえ
そんなふうにはほんとうは分けられない世界で
息をしている

まだ春がくるまえのこと
急ぎの用事でもないのに
話すこともないのに
ひとと会って
いっしょに歩いた

雨あがりの
とくべつにきれいな緑のなかを

赤でもピンクでも紫でもなく
赤でもピンクでも紫でもある
移ろう花びらのような
やさしい沈黙を交わして

今夜は満月
けれど曇りのち雨
満ちた月は空に現れない

それは
ない のではなく
まだ見えないだけのひかり

さまざまな輝きと
沈黙を
吸いこんで ひらく
六月の花を
そばに置いて

急ぎの用事でもないのに
話すこともないのに
もっと会っていたかったひとに
メールをした

「こちらはまだ曇っています。
そちらの窓からは
見えないはずの月が
見えますか」

東京・杉並
峯澤典子