5月13日(水)

午前のニュースから聞こえてきた
銀座というのが崖の名前に思えてくる

そこへ行けないことはわかっている
でも、なんで行けないんだっけ

一番可能性が濃いのはそれがもう失くなってしまったから
通り過ぎた信号の色みたいに、そう点滅する
それとも銀座とは
アトランティスとかパンゲアとか
宝の在り処を×で記した
だれにも解読されない
端のめくれた茶色い地図にしかない場所なんだったっけ

ううん、それはあるんだけど
今日もにぎわって、明るく平らな
ガラスのように澄んだ几帳面な四角い灰色の敷石を
靴がいそがしく渡ってゆくのだけど
こことは時空が違うのです
だからわたしは行けないんです

ほんとはもうないんでしょ
もう世界は全部崖の名前になってしまって
パラレル宇宙の任意の時代と場所の
博物館のガラスケースに収まってしまったんでしょ
今年はやけに葉が茂ってお化け楓みたいになった
楓のそよぐ
ここしか
もうほんとうは世界ってないんでしょ

千葉・市川
柏木麻里