5月6日(水)

今日という日が終らない
明日はどうすれば始まるのか
手を洗っても洗っても拭えない汚れがあり  
蛇口から流れつづける今日という一日が
ずっと水飴状に透明な均質さで引き延ばされていく
夜の息苦しさの底でわたしはかすかに発光している

洗っても洗っても夢は汚されていった
溺れるように今日の渦に耐えていたが誰の夢なのかは分かりはしない
今日もいくつかのドラマで何人かの人が殺された
何人かの犯人がいて何人かのわたしが目撃した
何人かのわたしが今日も何人かのわたしを殺めると
それは輪郭を失ってまた最初から始まるのだった

肺呼吸がすたれていってタバコから煙がのぼらなくなった
陸に這いあがって進化の過程に入っていたがまだ夜だった
絶滅した男たちの細かな癖に気づいていたのはわたしだけかもしれない
右の人差し指で顎のあたりを掻く何気なく
この仕草をわたしは今日何度となく繰り返していた
その手は汚れている洗わなくては

夜明の時刻になっても
それから30分過ぎても
ついに夜は明けなかった

福岡市薬院
渡辺玄英