郵便配達夫は
花が咲いているでしょう
詩を書いているのよ
誰も訪ねて来ない山の奥とか
谷底で
お天道様のほか
誰も見る人がいないのに――
花が咲いているでしょう
春になれば
詩を咲いているのよ
そんなふうに――
蜜蜂の翅音に似た
バイクの音が山道を這い上がる
ちらちら見え隠れする姿に
あんなところまで郵便配達夫は、
と村人は驚いた
手紙には触れずに
郵便配達夫は、知っていた
読めるところだけ読んで――
言葉の先には人が住んでいることを
***
ドミノ倒しのようにイベントが軒並み中止や延期になり
そうだこの機会にと部屋の片付けやずっと見つからない
探し物をしている。
上の詩も片付け途中で見つかった古い詩、
どこに出すつもりだったろうか
あるいは捨てるつもりだったか。
捨て猫のような、郵便配達夫の詩の
最後の連の、最初の行を最後に
まわして、敗詩復活をしてみた。
芽吹きの季節となり、見渡す限り奥武蔵の山々は
新鮮な緑で盛り上がる、サラダ鉢のようで
目が美味しい。
水も空気も、とびきりだ。
でも、
人も恋しい。
おーい。
埼玉・飯能市
宮尾節子
宮尾節子