4月15日(木)

今朝、マスクをなくしてしまいました。
そのお徳用使い捨てマスクはなんと
2日しか使っていませんでした。

前回、薬用石鹸で洗った使い捨てマスクは
毛羽立ってゴワゴワで、耳のゴムは伸び切っていましたが
顔が少々かゆくなる以外、問題なく使えました。
むしろ誇らしいとさえ感じました。
なのに、使用済みとはいえ新品同様
しゃんとしたマスクを道に落とすなんて。

家を出るとき、上着の左ポケットに入れたのを
「確かに見た」と彼も証言。
ただ起き抜けで、扱いが雑だったのは否めません。
「帰り道、もし落ちてたら拾う?」
彼の質問に、コンビニまでの道中
わたしは深く頷きました。
「でも知らない人のマスクかもしれないよ」

(住民票を東京に移していない
わたしの郵便受けには、
知らない人から布マスク2枚は届きません)

ここ数日だけで、
道に落ちているマスクを何度目撃したことか。
チャック付きの小袋のなか、
指人形みたいに丸まったその姿。
迷子を見過ごすより うんとくるしかった。
お年寄りも多い、緑ゆたかな住宅街です。
なんとか届けてあげたかった。

もう一方の右ポケットから
iPhoneを取り出して起動。
画面の中の〈どうぶつ〉がきょうも
落としものを探して! と催促します。
マスクをなくして傷心のわたしが
「しょうがないなぁ」をタップすると、
アバターのわたしはさっそく
〈ワサワサの森〉へ分け入っていきます。

「落としたのは金のマスク? 銀のマスク?」
それは、ただひとつ
わたしの低い鼻にフィットした
わたしの頬を守る白い天使。
一体どう証明しろというの?
呆然と仰いだ民家の窓に、
マスクをしたテッドのぬいぐるみが
悠々と佇んでいます。

森に落ちていた一冊の本は
詩集ではありませんでした。
感染症をモチーフにした
SF小説でもありません。

どうぶつの森に
パンデミックが訪れる前夜、
ついに見つけました。
「キャンプ場に 届けに行こう!」

わたしはいつか
ティーナという名の白い象に
詩を読んであげたい。

4月15日

東京
文月悠光