生き延びるためには変異もするだろう
ヒトも鰐やらトカゲに変異して
凌ぐのだから
ナントカ禍なんて言い方には慣れたくねえなと
腰から下を鰐化させた師匠が言うと
手足だけがトカゲの惣領弟子は
悪党征伐の噺はわかりやすいですからね
と応じている
消毒とひとつ飛ばしの客席で落ち着いている現場は
このごろ彼らをもう完全変異させない
わたしは左手に痒いものが治るのを待って
自分だけのためのコーヒーを久しぶりにいれた
がまんしていたから
入念に落としたから
さぞや美味かろうと思っていたのに
気がついたらなくてもいいものばかりだ
靴や上着や本や かかわり
ふるい落とした身からは
何も負っていない皮膚があらわれて
花びらや雨粒と
やわらかくすれちがうことができる
はじめての空気を吸いながら
詩を書くことがまたちょっと
すきになってしまって
はじめてが拡げる国境
海へと続く川を下ろう
そこに鰐たちと遊ぶ
東京・目黒
覚 和歌子
覚 和歌子