2月28日(日)

もうすぐピアノの発表会
きょうは
町の児童館の一室を借りて
リハーサルが行われた

でも教室のみんないっしょに ではなくて
ひとりずつ 時間差で入場したから
子どもは
どのともだちのピアノも
聞かなかった

でかけるなら少人数で
それと
遠くへはいかないこと

もう数か月 いえ、一年ものあいだ
恐ろしい呪文のように
子どもに
自分に
言い聞かせてきたことは
見えない足枷になっているのだろうか

廊下でじゅんばんを待つあいだ
換気のためにおおきく開かれた窓から
明るすぎるひかりが差しても
まだ
ここにいなくてはいけない と
思おうとしている

小さなホールが一瞬
しずかになったあと
ドアの隙間から
上級生の弾くマズルカが流れてきた

音符と音符は
じゃれあう蝶たちのように
廊下の窓から抜けだし
通りを歩くひとの肩や髪にとまり
知らない電車にのって
知らない海や山へと辿りつくのかもしれない

明るい日差しのなかに
おとなたちを置いて
子どもたちはじゅんばんに
なにももたずに
ピアノの前にすわる

わたしたちが
まだ見ることのできない
先へ 遠くへと
たったひとりで
向かうために

東京・杉並
峯澤典子