1月20日(水)

県芸で芸学専攻の学生たちとの
詩作の実技研究が先週と今週に連日あり、
六日目の今日は柄にもなくこの十年の現代詩について話そうと
昨夜どうにか資料を作り、今日の午前中に原稿にまとめていた。

いつもの年なら歩いて五分ほどの当蔵キャンパスで
おたがいの顔を見合わせて話すはずがオンラインでするのは
ちょうど今日から沖縄が県独自の緊急事態宣言を出すと
何の冗談なのか布マスクをつけた県知事が昨夕会見した通りで
昨日も今日も島嶼県で感染者が百人を超える状況ではほかにしようがなく
ちょっと重たい話にもなるから学生の様子が気になったけれど
間にインターバルを入れつつ二時間ほど話したことを
学生たちはよく聴いてくれていた、気配が伝わってきた、気がする。

午後一時に始まった実技研究は夕方五時半に終わり、
きみが作ってくれた夕食を食べて七時半過ぎくらいだっただろうか
エネルギーが空っぽでスイッチが切れたように眠気に誘われて、
まだ今日じゅうにやることがあるからすまないけど九時に起こしてと
頼みながら布団にもぐり込むなり眠ってしまった。

「***が来てるよ」
きみの声が眠りの向こうから聞こえて目を覚ましたのは
ちょうど九時だった。誰だろう? とぼんやりと思いながら、
訪ねてきたのは親しく付き合っている詩の仲間で、
「さっきから電話も鳴ってたよ」
そう教えてくれるきみに促されるように
パジャマの上にウィンドブレーカーを羽織り、
窓辺に干していた不織布マスクを付けて玄関のドアを開けたら
彼は廊下に立っていて、人とこんなふうに対面するのはいつ以来だろう、
街ですれ違うとかでなく久しぶりに人と対面で会った驚きに
半ば勘の戻り切らないもどかしさで挨拶をすると、
これをと差し出されたのはムーチーだった。

「……ハチムーチー……」
相手の言葉も寝起きの頭で聞き取れた単語がそのひとつあれば十分で、
ああ、今日はムーチーだったんだと思い出した。
旧暦十二月八日は沖縄では月桃の葉に包んだ餅をいただく日。
甘くて月桃の薫りのする餅をムーチーと言うのだけれど、とくに、
その一年に生まれた子の健康を願う(ついでに大人たちの健康も願う)
初餅がハチムーチーという縁起ものだ。

先日きみとスーパーに行ったときムーチーがあったから、
「買う?」
と訊いてくれたのに、ううん、と買わずにいたムーチー。
店で買うのは味気なくて、叔母がたくさん作って持ってきてくれたり、
町内会のムーチー作りできみとうたがこしらえた年もあったりして、
そこから遠ざかってはますます店で買う気になれなかった今年だったのを
ハチムーチーだなんて晴れやかな祝福のお裾分けが舞い込んできて、
ぼんやりした頭で受け取った袋を手にぶらさげたまま、
「おめでとう。ありがとう」
うれしさをぎこちなくしか伝えられなかったつかのまの後で、
「ハチムーチーをいただいたよ」
きみとうたに見せたら二人ともうれしそうに声をあげた。

沖縄・那覇
白井明大