1月12日(火)

今日
東京に初雪が降ったらしいけれど
わたしは見ていない

おとといの日曜日はわたしの誕生日で
昨日の祝日は成人の日だった
コロナ感染者が急増している状況で成人式を開くのか、とか
出席して大丈夫なのか欠席すべきではないか、とか
せっかくの晴着を着る機会が、とか
論争もあったみたいだけど今朝の新聞にはマスクで着物姿の女の子たち
おめでとう
39年前のわたしは成人式に出席するという発想がなかったから
少し不思議な気持ちです
役所が主催する式におとなしく招かれて並んで祝われるなんて
従順な工業製品として完成させられるみたいでいやだと思っていました
着物を纏うのは古くさい伝統に幾重にも体を縛られることそのもので
息苦しいと勝手に思って憧れたことは一度もありませんでした
遠いあの日
ふつうに大学のレポートのことを考えながら
午後の光射す西武線にゆられていた青くさいわたしを思い出します
――もしもあそこから何かをやり直したら
たどり着く今はこの今とは違っている?

そのわたしは今日の初雪を見るだろうか

おそろしい量の雪が積もっている映像が
ここ何日かSNSを開くたびたくさん流れてくる
子どもの頃わたしも何度かそんな雪を見た
福井県小浜市で
朝起きると父が屋根の雪下ろしをしていて
道の両側に除けられた雪が積みあげられ白い壁のように迫っていました
学校へ向かうわたしは眩しくて寒くて何も考えていませんでした
――あそこまで戻って少しずつすべてをやり直した方がいい?
この今はあまりにも間違っている気がするから

初雪を見たかったわけじゃない

感染者数が1000人単位で増えていくのなんて見たくなかった
間違っても謝らず責任を取らない政治家たちの跳梁跋扈も見たくなかった
言葉を雑に扱って歪ませる大人たちを見たくなかった
医療を受けられないまま死んでいく人を見たくない
――どこからやり直せばいいのだろう
1年あったのにほとんど何も対策されていないみたいだから
もっとずっと遡らないとたぶん無理だし
時間は巻き戻せないし
歴史改変はやっちゃいけない
知ってる
たとえループできたって今日のわたしは初雪を見ない
おめでとう
59歳のわたし
ここは緩やかな地獄です
いつか見たかったものを見るためにここから
やり直していけますように

東京・神宮前
川口晴美