11月30日(月)

僕は保健所の主査だったので
PCR検査の抑制にはすぐにピンときた
検査技師が少ないのだ
検査技師は熟練工と同じで
かんたんには増やせない
だから検査数を少なく抑えて精度を維持しようとしたのだろう
他人の身になって考えることが苦手な職業だから
デリカシーのない対応
思いやりに欠ける対応はいっぱいあったに違いない
だからそれはそういう職員に代わって謝るけど
心身をすり減らしてボロボロになっている保健所職員を
政府の手先みたいに言ったり
怠けているみたいに言っているのを聞くのは今も耐え難い

誰かに当たりたいのはわかる
悪者を作ってうっぷんを晴らしたいのもわかる
正義の味方になって
営業自粛していない飲食店に嫌がらせするのも絶対に認められないけど
わかる
世の中がきれいごとですまないことを
あらゆる場面で知らざるを得ない職業である

公務員をやっていると
友達たちの「そういう会話」に入れない
このまま
友達がどんどん遠ざかってしまうのではないか
でも僕は保健所を悪者にすることはできない
すべてを利権に結びつけてしまうことができない
「埋蔵金」なんてありえないことを知っていたときのように
少なくとも保健所の事実を多少は知っているのだから

渡した原稿が無断でボツになっても
二度と原稿依頼が来なくなっても
長年書き溜めた散文が出版できなくても
そして詩集を出せなくても
詩人の友達が一人もいなくなっても
僕は僕でありつづけなければならない

僕は詩人でありつづけるしかない

東京・小平
田野倉康一