11月24日(火)

深夜の駅
るるる6両の電車が目の前を通過する
誰も乗っていない
明るい視野の中には
ただ
空気と呼ばれる死が満ちていて
誰も乗っていないるるるるる

最後尾の車両には
ここにいないわたしが白いマスク姿で
乗っている
しずかに咳をしている
心音はもうきこえない
電車が通り過ぎたら
わたしはいなくなっているからね

 西鉄電車はアイスグリーン
 (歯磨き粉の色をしてる
 あたりは明るくても(駅の外は闇だよ
 だれも気にしてくれないなら(波打ち際
 わたしは一人でここで毎晩歯磨きしてもいいな

車窓からここにいないわたしをみているホームのわたしが見える
ほんの一瞬
あれは六年前にいなくなったわたしですね
わたしに出会っていれば死ななかったかもしれないあなた
もうちょっと生きてみっかなと呟きながら
すこしずつすこしずつそして一瞬で波に攫われたわたし
(死の気配に包まれてもマスクをしていれば耐えられる
耐えられる、生きているあいだは死なない気がする
(駅を通過して
(暗い窓に蛍のように波が打ち寄せる
あのときわたしは
電車には乗らなかった
るるるるる

福岡・薬院
渡辺玄英