11月20日(金)

靴下もタオルも 
くちびるも すぐに乾く
豆を煮つめる小鍋に
なけなしの湯気が立ちのぼって
生温かい日和をもてあます

最多記録の更新は予見のとおりで
第2波とは桁ちがいの棒グラフも
とっくに約束されていたこと
皮膚の手ざわりは世間の不穏とずれたまま

「イベント」のたび増幅する
可聴帯域を外れた地鳴りのようなもの
それをたやすく左右できることばやBGM
同じ振動数を拾われて
光の訴えに耳をふさいで
違うふるまいを選ばずに
波形のくりかえしに流されて

ワクチンが登場したあとは
長いトンネルを抜けたみたいな
お祭り騒ぎが待つのだろう

父母に学んで身じまいを考える
子どもを持てなかったわたしたちは
上下左右をさばく知恵のあるうちに
おしまいの居場所を決めること
残して行く全部を
(かわいい)トカゲたちに割振りすること

ああオレたちもこんなこと 話し合う日が来るなんてさ
わたしけっこう楽しいけど
そうか と言って間をおいて 
そうだよね と顔を上げて夫は笑った

みんないつかいなくなるという平等
からだの声とふくよかに交信しながら
連続性の眩しさを呼吸として
近づく死にやわらかく向かい合う
その日々を未来と呼ぶことを
わたしはためらわない
                      

東京・目黒
覚 和歌子