この時期にしてはめずらしく気温が上昇し、
わたしたちは
うっすらと汗ばんでいた
ニュースが
気温のほかに様々な数字を伝えている
こうなることは
前からなんとなく分かっていたが
実は少しも分かっていなかったのだ
カミュが『ペスト』に
「なるほど、不幸のなかには抽象と非現実の一面がある。しかし、その抽象がこっちを殺しにかかって来たら、抽象だって相手にしなければならならぬのだ。」
と書いたことを
ぼんやりと思い出しながら
歩いて帰ると
繊い月も
ぼんやりと
雲の間に出ていた
ランベールの「あなたは抽象の世界で暮らしているんです」という言葉と
リウーの
「人間は観念じゃないですよ、ランベール君」
との言葉
彼らの議論が
夜の空気に
ささやかに響くのである
※引用は全て アルベール・カミュ 『ペスト』 宮崎嶺雄訳 新潮社 2013年 による。
福岡・博多
石松佳
石松佳