朝6時の日の出とともに呼び出されて
山をあがっていく
なんでこんなところに山があるのか
まったくわからない都市の中の微高地
いすをもって上がっていってほしい
いすをもって。と魔女はいう
仕方がないから右手にいすをぶらさげて
芝生のようなヒースのような草地の丘をあがっていく
あたりにはまだ朝露がおりて
つつじの中からあたしの顔が笑っている
等高線を。等高線を描きなよ、と魔女はいう
草地の表面をたどり
同じ高度につないだいびつな曲線
おやおやそこにはすでに石灰のラインマーカーまで用意されて
草地の表面の微妙な谷の数々、
草地の表面の微妙な尾根線、それらを
知らず知らずのうち
ぼくの白線は描き出していく
詩とは等高線のようなもの、
なんてちょっと言ってみようか
きっかり標高50 mの等高線が
武蔵野の河川の水源をせっせとかすめていくように
詩は、
精神の茂みにかくされた
ほのかな水のゆらめき、
それを一つずつ
うるませていくトレイルかもしれない
またあるいは――
等 高 線が
「山」を
象 徴
する ように
詩 は
「世 界」 を、
象 徴
す る
のさ、言ってしまえば!
もしも、もしも、
もしそこに確かに存在している、ありふれたそのものが
実はもうひとつ立体的に次元の高いなにか、
そのなにかの等高面として見えてきてしまうのだったら、どうする?
喩法のセリーを微分積分しながら
斜面をのぼりおりする、その瞬間
かすかに苦く
笑いは走る
けもののような蒼い闇
草地はどこまでも続き
ぼくはもういつのまにか、
昏い孤独のどまんなかに立っている
たぎりたつものが
あふれていく
草地にあけられたいくつもの穴。
ぼくはことばの衣服をぬぎすてた!
ぬいでしまった!
(受付は。
(朝露にぬれてしまいますよ、
おぬぎなさい、
お急ぎなさい、
田中庸介