10月20日(火)

あれは、十歳(とお)くらいだった
肝だめしに行った
白いきもののお化けとか、そんなに怖くなかったが、
こんにゃくに頬っぺたを撫でられたとき、
震え上がった
竹竿から糸で吊るって振りまわしていることくらい
とうじだって察していたのに、
ぬるっとした
あの冷たさ、
それがまさしくやって来たとき、
恐怖なるものの実体のひとつが
わかったのではないか
ほんとうに恐ろしいのは
裂けた口でも血まなこでもなく、
なんのやりとりもできない
のっぺらぼうですらない
ただの冷やかさであること、
わたしは知ったのではないか

目と鼻があったって
そのベロが、
血の通わないこんにゃくならば、
冷蔵庫だよ
  耳も、こころも、

はいいろで
 いんしつで
  同語反復で
先っぽが割れた二枚舌もあるぞ
巷をなめようと
ぬらり、
高く吊るされて、

ずいぶん寒いね
季節も、頬っぺも、

ひとっ走りして
焼きいも、
食べようか

神奈川・横浜
新井高子