10月17日(土)

国勢調査調査書類受付業務
国勢調査管理指導員としてここにいる

耳の遠い老人たちの
甲高い声が響き渡る
思い出せない昨日
廃屋
廃アパート
廃人
一軒一軒訪ねた記憶を
一歩一歩たどる老人たち
その記憶の糸という小径を
僕も一緒に細々と歩く

谷の奥の道のきわまり
谷神はいない
高層マンションの夥しい窓に
一様に東京の曇天が映る

角の部屋
前から住んでいて
4年前
亡くなった篠畑さん
あ、7号室は首つりのあった部屋で
さみしいさみしい日月の記憶

出さなくていい
それはメモだから
住んでおられたのは中村さんでしたが
今は神戸さんの息子さんが…

あ、引っ越された?
10年以上前に。天野さんのおばあちゃんが…

この建物の用途がわからないんです

書類を書いてこない老人
ずっといる老人

一人の方は亡くなってたんですけど
一軒家ですから
それ、アパートだったんですね
三階にはだれも住んでいません
外から見たんではわかりませんでした

だからもうねえ…

集会室の窓も曇天
一人去るごとに机、イスのアルコール消毒
筆記具もアルコール消毒
ついでにあらゆる人生もアルコール消毒してしまえ

東京・小平
田野倉康一