9月26日(土)

いつ、どこにいる
日記を書こうとして
どこにいるとは
どういうことかと
考える

雨の中にいる、Yes
新幹線の中にいる、Yes
街と街のあいだにいる、Yes

どこかにいる時
どこにいられるのかと
考える

雨粒の中に、Yes
雨粒よりもずっと小さな
ウイルスの霧に包まれた星の上に、Maybe
星を見まもり続けてきた月の眼差しの中に、Yes
月の向こうの凍てつく沈黙の中に、Yes

そして星々のような細胞や
腸内フローラの
知り合うことのない花畑と共に、Yes

ここには小さく復活してくるものばかりだ
生きているから

車両の細かい振動に身を委ねながら
自分の小舟の舵をとる

鎧姿の若武者が落ちのびようと
沖合で待つ助舟に馬を向ける
しかし、汀から敵方の武者の声
「あれはいかに、よき大将軍とこそ見参らせて候へ。
まさなうも敵に後を見せ給ふものかな。返させ給へ、返させ給へ」
扇を上げて招かれて
ここを先途と馬を返す
なにもかもが乳色に見える
その同じ海に
私も舵をとる

考えてみれば
星は雲によって地上を諦めない
星と地上は千年続く雨の間も
信頼を失ったことがない

その星と地上のあいだを
いま
時速285kmで
東へ進む途上

新幹線車中にて
柏木麻里