9月23日(水)

16度だよ、寒いっ。長袖がいる!
と騒ぐ家族の声で、朝を迎えた
奥武蔵・飯能です。

まえは。
「暑い」のあとには、「涼しい」のひと声で
ちょっと涼んでから、「寒い」冬をむかえ
そして。
「寒い」のあとは、「暖かい」のひと言ふた言で
しばらく暖まってから、「暑い」夏へとむかったように思うけど

近年はどうも。
「暑い」の文句のあとは、すぐ今朝のように「寒い」と
次の文句を言っているようで。段から段に飛び移るように
文句から文句を跳び移って、ご機嫌な時間が減ってきた気がする。

涼しいな、や。暖かいね、の。
やさしい合(あい)の言葉や季節がなくなって。気持ちや気候の段差がいっそう
きつくなったように感じる。

頻発する豪雨災害や、河川の氾濫等につづいて
これも世界的規模での深刻な気候変動のせいだろうか。

ウイズコロナ、のつぎは、ウイズ気候変動なのかねと、吐息もでる。
先は見えないし、元には戻れない――いったいどうなっちゃうんだ?
ぼくらをのせて、ひょうたん島はどこへいく、うううう、と
ときどき、難破船の乗組員のような、気分にもなる。

それでも日々、高くなる
空を見上げれば、すいすい元気に飛び交うアキアカネの群れ。おお、秋だ秋茜だ。
足元を見れば、道には色づいた落ち葉がチラホラ並びはじめている。
去年の秋と今年の秋の違うところは――
落ち葉のなかに、白いマスクが何枚か混ざっているところかな。

白いマスクが、これは夢ではないよと
現実を見よと、警告する。

マスク暮らしも、板について。人気のないところでの
マスク外すタイミングも心得た人々の、外し方もそれぞれ個性が出ていて
観察するとけっこう面白い。

顎の下にずらしてタバコ吸ってる、顎マスク。
片肌脱いだ遠山の金さんのように片方外した、片耳マスク。
ゴム紐が伸びきってないとああはできないだろう頭の上の、あみだマスク。
口だけ隠せばじゅうぶんだと思っているらしく堂々と、鼻出しマスク
人の気配を感知するとさっとポケットから現れる、忍びマスク。
マスク景色も、十人といろだ。

外出自粛令のおかげで、すっかりテレビっ子になってしまっている。
ニュースやワイドショーやドラマに映画とまあよくテレビを見る。
(推しの司会者や、コメンテーターもできた。今日の髪型や服まで気になる。)
きのうもテレビでおもしろい話を、仕入れた。

それはね。
ひとに何とかマスクをしてもらうための、
ところ変われば、セリフも変わる――
世界お国別、口説き文句の違いです。これは唸った。

アメリカ人にマスクをさせるには、
「ヒーローに、なれるよ。」(アメコミだ)
イギリス人には、「紳士は、してるよ。」(おとなだ)
ドイツ人は、「マスクは、ルールだよ。」(まじめだ)
イタリア人は、「モテるよ。」(さすがだ)

さて、日本人は?と固唾を飲んで待った。
さて、なんだとおもう?なんだとおもう?

なんだとおもい、そうかとおもった。
そうかとおもい、やっぱりとおもった。
そして、ちょっと悲しくなった。答えは

「みんな、してるよ。」(赤信号だ)

みんなしてるよ、で落ちる。にっぽんじん。
なるほど、と思いつつ、こわくなった。
「みんな、しんでるよ」に
かわったら……おだぶつだもの。

みんなのくに、にっぽんなんですね。
ばんざい。

みんなのくにから、ひとりのわたしを
とりもどせ、なんて。

そとではいえないことを、こころのなかで
ぶつぶつ、いいながら――

河川敷を散歩してると、白い落ちマスクのつぎには
草むらに赤い彼岸花を発見しました。

こちらには彼岸花の名所が結構多いのです。

ちなみに隣りまちには500万本の曼珠沙華(彼岸花)の開花で
有名な観光名所がありまして
9月、10月、つまり今頃の季節は毎年、どっと各地から老若男女が押し寄せて
真っ赤な絨毯と化した、満開の曼珠沙華の周りを
ぎっしりの人が埋め尽くしては右往左往。たくさん出店も出てたいそう賑わう
まちをあげての曼珠沙華まつりも、今年はコロナで中止。

そのために、咲く前の花の「刈り込み」をしたとのこと
花たちはだまって(あたり前だが)、されるがままに
つぎつぎおとなしく(あたり前だが)、刈り込まれていったのだろう。
・・・・・・・・・
いまかいまかと花咲くじゅんびもばっちりの蕾もふくらんでいただろうはずの
500万個の花の首が、いっせいに落ちたとは
花に罪はないものを――ざんねん、むねんだ。

春は藤の名所で藤の花房が、切り落とされ
バラ園ではバラの首がやはり、摘み取られ
そして秋には、曼珠沙華、おまえもか。
(みんな、してるから?)

原発事故では、動物たちが
コロナ禍では、植物たちが――結構犠牲になりますね。

早く、動物も植物も人間もともに、支え合って
(みんな、そう。とくいな、みんなで)
たのしく暮らせる日が、きてほしい。

マスクをずらして、深呼吸したら
きょう、金木犀が匂った――

いいにおい。

今年初の、秋の香りだ。
こんにちは、秋。

埼玉・飯能
宮尾節子