9月7日(月)

昨夜奈良から東京に帰ってきて、18:26 分京都発のぞみで 20:38 に東京について、八重洲北口からすたこら、東西線日本橋へ、日本橋からあと、えっと、ふた駅なんだうちの駅、日本橋のとなりりの茅場町までは一分、茅場町からとなりの門前仲町までは2分、この2分の間に川を渡る、渡るっていうか地下鉄では潜ってるのかな、潜る、潜って渡る、潜って渡ってる、

昨日までの三日間、毎日四、五時間山里を歩いた、歩きまわった、二、三日目は宿でじっとして原稿を書いていてもよかったのだけど、天気もよかったし、せっかく来たから歩きまわった、景色もよかった、ZOOM にメールにラインに…と、画面を見る時間が今年あっとうてきにふえた、目がつかれている、緑がやさしかった、直線でない稜線が、なにもない空が、それらを、目が求めていて、

二日目は山の上の高原をめざして歩いていた、山の途中で来週のオンライン大会の接続チェックをかねたミーティングの時間になってしまって、私だけ屋外で、背景が大自然になってしまって、笑われちゃった、四元さんがつぎのようなことを云った、「空、すごいね。これじゃ空のほうが気になっちゃって、話が入ってこないよね。」こないですよね、

みんなの空だけを背景にうつして、空の背景だけをうつして、なにも語らずに、ただ黙って空だけをうつしあって、眺めあって、眺めあわなくてもよくて、そんな ZOOM 会議が、いつかしてみたい、してみたいな、

二日目の夜、べつの ZOOM ミーティングで、ZOOM で手話で打ち合わせってはじめてしたんだけど、画面からはみでちゃって、もどかしいね。やっぱり直に会いたいねってなって、明後日って、つまり今日、正確にはこの今日のことを書いてるのは、明日なんだけど、会いに行ったよ、そのことはたぶんまたあとで書くね、

三日目の、つまり昨日の朝、三日間ではじめて雨が降って、雨が降ってなかったら朝から出かけてしまうところだったのだけど、雨に足止めされて、足踏みをさせてもらって、ありがとう、雨、ありがたいなあ、雨雲でてっぺんが見えない、山を眺めながら、民宿の雨の窓辺で、先週の金曜日にリリースされた、ダーティ・プロジェクターズの新譜を聴いてんだ、『スーパー・ジョアン』っていう、ジョアン・ジルベルトにマージュしてるみたい、去年、窓から三崎の海が見わたせる海辺の民宿で、ジョアンを聴いてたことをおもいだして、そのすこし前に亡くなったのだった、あのジョアンの『声とギター』ってアルバム、帯に「これより良いものは沈黙しかない」ってある、座右の銘にしてるよ、何百回も聴いたんだ、電車でも山でも海辺でも、人生のサウンドトラックだね、ジョアンが好きだっていう青葉市子さんの、こないだのユリイカの特集に寄稿したとき、ジョアンと市子さんについて書いたとおもう、タイトルが、声とギターとお漬物、そうだ先週は市子さんの新曲もでたよ、そっちも聴いたよ、そっちに変えるね、

声とギターとお漬物、声とギターとお漬物、それらがあれば、だいたい生きていきるよね、生きていけるよね、ここの民宿のごはん、なかなかおいしいんだ、ご飯とみそ汁とお漬物、焼き魚に、この村で取れた野菜、窓の外にそびえてる、お山をみながら、お漬物かじる、お味噌汁すする、ずずず、

日記、ちっともすすまないね、これは何年何日の日記だったっけ?2020 年 9 月 7 日か、9 月 7 日の日記なんだけど、9 月 6 日の朝食について書いてた、しかも今日は 9 月 8 日の朝で、しめきりは 9 月 7 日の 24 時なんだけどね、その時間は横浜から家へ帰る最終電車の中に居たんだ、夕飯もまだ食べてなくて、夕方から日比谷、移動して 21 時から横浜で、ミーティングがあってね、オンラインじゃないやつが、両方とも長引いちゃってさ、昨日は、えっと、日記的にいうと、今日は、朝から超いそがしかったんだよ、お、これでやっと今日の話に入れるね、やっと今日の日記らしくなってきたぞ、やったね、みなさん、お待たせしました、やっとここから、今日の日記ですよ、今日の日記のはじまりはじまり、だよ、

映画みたいにさ、ここでやっと、まんをじして、ってかんじで、タイトルでも出そうか、

2020 年 9 月 7 日。
大林監督の映画だとさ、ここからサブタイトルみたいのがいくつも出るんだよ、ほら、長岡花火大会の映画とか、サブタイトル大すぎて、どれがほんとのタイトルかわからなくなっちゃう、今度の「海辺の映画館」も、タイトルが出たあと、えっと、「映像純文学の試み」だっけ、っていうサブタイトル?がバーンと出て、わたし、おもわず吹き出しちゃったんだけど、みんなは笑ってなかったな、あの映画、さいごのほう、劇場のあちこちですすり泣く声が聴こえたよ、一週目に見に行ったんだけど、ほぼ満員だったな、日比谷シャンテ、今週でシャンテでは終わっちゃうのかな、もう一回見にいっときたいな、いけるかな、

それでね、この日記もさ、たとえばさ、「独白的純日記の試み」みたいなサブタイトル?みたいなのをかかげて見てもいい、独白って、わたし誰に話かけてるんだろうね、きっとあなたに話しかけてるんだろうね、あとは依頼主の松田さんかな、松田さんの顔もちらついてる、なにせしめきり過ぎてるからね、松田さんごめなさい、

いまの連、読み直したら、さいごのところ、ごめんなさい、っていわなくちゃいけないところ、ごめなさい、になってて、わたし、あやまるのへただね、へたね、へた、

独白的純日記にもどる、

そういえば昔、吉田喜重の映画に「告白的女優論」ってあったよね、映画のなのに「論」って、かっけーとか、それを見たのまだ二十代前半とかだからね、しびれちゃって、でも内容はあんまり覚えてなくて、例によって岡田茉莉子が出てたよね、岡田茉莉子とあとふたりの女優が、森のなかを歩いてる映像が思い浮かぶんだけど、そんなシーンあったのかな、まあその映画のことはどうでもいい、「告白的女優論」みたいな感じでさ、これは「告白的日記論」でもいいな、さっきは「独白的純日記」っていったんだけどね、日記論を日記でやろうとしてるってわけ、ミイラとりがミイラになる、みたいにならないといいね、

昨日の夜、奈良から東京に帰ってきて、18:26 分京都発のぞみで、20:38 に東京について、八重洲北口からすたこらさっさと、東西線日本橋へ、日本橋からあと、えっと、ふた駅なのね、うちのもより駅は、日本橋のとなりりの茅場町までは一分、茅場町からとなりの門前仲町までは2分、この2分の間に川を渡る、渡るっていうか地下鉄では潜ってるんだとおもう、潜って渡って、ひさしぶりに帰ってきた、荷物いっぱいかかえて、

半沢直樹が、撮影が遅れて、放送予定のえっと第 8 話だっけ、が来週に延期になって、そのかわり急遽、出演者が出てきて1時間の生放送をする、いそいだらそれに間に合うかな、いそぐね、改札を出たのが 55 分、家についたら 9 時 3 分だった、半沢はじまってた、どうやら冒頭のいいところ見逃しちゃったみたい、いちおう録画しといたんだけど、生放送だから、番組の設定がかわったのかな、録画が無効になってた、ついでに録画したあれこれちゃんと録れてるかチェックしたら、「名建築で昼食を」が録れてなかった、あれだ、うちのベランダの前の木が繁茂しすぎて、パラボラアンテナが受信する、電波を阻害していて、「名建築で昼食を」は BS の番組で、どのチャンネルだったか忘れちゃったけど、一話から毎週たのしみにしてるのに、ちくしょう、こないだ近所のホームセンターで買ってきた枝きりバサミで、あとでチョキチョキしてやるんだ、とかおもってたら、昨夜ポストに、当マンションの住人各位、九月某日ベランダ側の植物の伐採工事を行います、みたいなチラシ、お知らせが入ってた、

葉っぱを切り落とすたび、モザイク状になった BS 画面から、葉っぱが落下するように、モザイクが剝落していく、枝切りバサミはふつうのハサミと全然使いかってがちがって、力の入れ方、筋肉の使い方がちがう、重たい、枝も枝でなかなかに太く、抵抗してくる、見れば見るほどよい枝ぶりで、その完璧なプロポーションを、わたしが壊そうとしているのだというそくめんがあるようにおもえてくる、これはこれで名建築じゃないかと、この木のかたわらで、わたしも昼食を食べているじゃないかって、

しかし今夜(昨日の夜、つまり 9 月 6 日の夜)しめきりの原稿があるのだけど、向こうで、つまり奈良で、あと新幹線でも、ある程度進めていたのだけど、21 時 3 分ごろ家に帰ってきて、疲れすぎてて飲めなかった、さっき京都駅で買った、抹茶のビールを開けて、ちびちび飲みながら、半沢直樹の生放送をぼんやり見てて、気づいたら寝ちゃってて、ここからやっと今日の話になるんだけど、2 時半くらいにがば、と起きて、「しめきり!」とおもって、しめきりの原稿にあらためてとりかかったってわけ、「カニエくん、きみは原稿書かないとおしまいだよ。お・し・ま・い・DEATH!!!」って、香川照之の大和田のモノマネ一人でしながら、夜中2時半に、「ナハ、あなたがいるってわかってあたし、やる気まん・まん・よ!」って、片岡愛之助の黒崎のモノマネ一人でしながら、それをうける堺雅人の半沢の苦い顔のモノマネ一人でしながら、午前2時半に、5時ごろいったん書き終わって(お・し・ま・い・DEATH!)、落ちて、七時ころ起きて、あれこれしたくして送りだして、あっといまに九時過ぎ、約1時間推敲して、これ、ある彫刻家に宛てた、彫刻にまつわる文章で、こんどでる彫刻家の作品集に載る文章なんだけど、短い文章を削って、かたちを整えていく、文章をつくりこんでいくのもすこし彫刻に似てるね、でもこの作家さんは石彫、石を扱ってるんだけど、一度彫ったところは元に戻らないからね、そこが文章とは全然ちがう、やっぱり全然ちがうなあ、

10 時過ぎに原稿を送付、つづけて英訳してくれる人に原稿を送付、念のためラインもしておく、これでやっとひと息、朝食たべよう、あ、そのまえに洗濯機まわさないと、旅先で洗濯できなくて、三日分の洗濯物がたまってて、洗濯機まわしながら、あー、あいかわらず部屋もちらかってて、洗濯機まわして、それから先週でた、一十三十一さんの新しいレコードまわして、

代々木上原のレコード専門店、Adult Oriented Records の開店 2 周年の記念盤で、主に AOR 系シティポップ系のレコードを扱ってるんだけど、この一十三十一さんの新譜は B 面に松田聖子「秘密の花園」が入ってて、松本隆作詞、呉田軽穂(ユーミンの別名ね)作曲のカバーでこれがめちゃくちゃ良くて、発売日から三日間で 100回くらい聴いて、これはやばいとおもって、先週どこかでもう一回代々木上原寄って、もう一枚買っておいた、レコードって聴きすぎるとすりきれちゃうのがいいよね、

それでそのレコード屋でついでに、呉田軽穂のつながりで、ユーミンの AOR 系を代表するアルバム2枚だとおもうんだけど、「パールピアス」と「昨晩お会いしましょう」を買って、どっちも 500 円とか 600 円だったかな、めちゃ安いよね、どっちも CD で、近年はサブスクで、何百回も聴いてきたアルバムなんだけどね、ところでユーミンは荒井時代っていうひとは、このへんのアルバムもちゃんと聴いてるのかな?「パールピアス」 100 回聴いて出直してこい、とか、昔のジャズ喫茶の頑固な店主みたいこといいたくなっちゃう、やばいね、でもいまの音楽も大好きだよ、長谷川白紙さんのおととしのアルバムとか 200 回くらい聴いたよ、The 1975 の今年のくそ長いアルバムだってもう 100 回は聴いた、いい音楽はくりかえし聴きたくなるね、再生したくなるよね、わたしは詩集もそういうものだとおもってて、100 回とか 200 回、再生される詩が書きたいたな、詩集をつくりたいな、

それでレコード聴きながら洗濯機まわしながら部屋のかたづけしながらってうちにあっというまにお昼で、夕方 17 時過ぎから横浜で打ち合わせ、20 時までのとそのあと別のプロジェクトの打ち合わせが 21 時から、の二本立てで、その準備もしつつ、16 時に送ってかなきゃいけなくて、それまではやや時間あって、郵便局に行く用事があって、外に出てみたら土砂降りの雨で、犬や猫みたいな、さっきまで晴れてたのにね、でもいいや、傘さして郵便局に向かう、あ、結局その宛先昨日は書けなくて、今日、この日記書いたらまずそれやらなくちゃだった、はやく日記書き終えないと、

この日記、つまり 9 月 7 日の日記を書くのに、わたし、9 月 8 日の朝めがさめて、昨夜 21 時半に横浜ではじまった二本目の打ち合わせが、23 時すぎに、つまりわたしの終電が来てしまったので、終わって、そうだオンラインじゃないと、終電ってものがあるんだよね、1 時ころ家に帰ってきて、駅前の松屋で遅い目の夕飯たべて、家に帰って 1 時半くらいだったかな、その移動の間も翻訳の件とかその他のプロジェクトの件でずっとメールとかラインしてるんだけど、帰って、まだ仕事は山積みなんだけど、なにより今日の日記のしめきりがすぎてるんだけど、とりあえず寝ちゃった、
それで 6 時すぎかな、夢を見て起きた、そうだ、小島ケイタニーラブさんとドライブしてた、ケイタニーさんが運転してくれて、あれ、実際は、おととい、奈良の山村から京都まで二時間、森をぬけて、林さんが運転してくれたのだけど、道中、いろんなこと話した、共通のしりあいもいっぱいいて、せまい業界だね、昨日の打ち合わせその2の一人も、そのひとりだった、

起きて 3 分もしないうちに日記を書きはじめた、で、いまにいたってる、パソコンの時計をみる、8 時 6 分、途中ちょっと中断されちゃったけど、もう 2 時間もこんな感じで日記書いてるんだ、こんど、24 時間日記を書きつづける、みたいなプロジェクトやってみたいな、このままいまこれをあと 22 時間つづければそうなるんだけどね、なんか、いけそうな気もするけどね、

あと十数分したらいったんパソコンを離れて送りださなきゃいけない、これはこれでそれなりに流れってものがあるし、日記なんてジャズのインプロヴィゼーションみたいなものだからね、コルトレーンかな、いやちがう、ソニーロリンズかな、ライブ会場だかスタジオだかにくる道すがらにたまたま耳にしたメロディを、その日の演奏によくとりいれたっていうよね、日記っていうのはそもそもインプロヴィゼーションでしか書けないのかもね、中学生のときからジャズ聴いて育ったからさ、家に死ぬほどレコードがあった、とかじゃないぜ、ゼロからぜんぶ自分で集めたんだ、うちの親は哲学者じゃないからね、っていうちょっとしたヒントだけ与えておくよ、これが誰の文体を意識して、それと架空のジャムセッションしてるか、いずれにせよ、ジャズにたとえられると燃えるんだ、

8 時 12 分、これじゃ日記じゃなくて「分記」だね、日記にはあきあきしてるから、これからは「時記」とか「分記」とか、それにもあきたら「秒記」を書いていこうかな、うん、そんなんなったらそれこそ病気だよね、

8 時 14 分、ダーティ・プロジェクターズのこないだの金曜に出た EP「スーパー・ジョアン」をこれを書きながらオートリピートでずっと聴いてて、奈良の雨の午前にもおなじようにしてずと聴いてて、昨日の移動中もずっと聴いてたから、一周 11 分とかだから、もう何回聴いたのかな、50 周くらい?これくらい聴くと、耳にしみこんだ気がするね、あと 50 回も聴けばからだにしみこむ、

8 時 16 分、ほんとに分記をやるのかあたしは、分記奮闘記だね、なんてね、そうだそういえばさ、来週キャンプファイヤーって企画があって、若いおもしろいアーティストが一晩集まってパフォーマンスする、もう告知も出てるよね、帰りの新幹線でプロフィール催促されて、あわてて出したんだった、それでそこで、記録をする、ドキュメントする、文章でね、

8 時 17 分、みんな多かれすくなかれ、映像みるのにつかれちゃってるとおもう、昨日の打ち合わせ1でも、W田さんが、もう映像みれない、っていってた、一日何十時間も見てるんじゃないかな、今年になって、こういう状況になって、そういう二次被害も出てきてる、みんなそれぞれのかたちでむしばまれてるね、

8 時 19 分、山歩きのために買ったカカオ 72%のチョコレートをほおばる、チョコをたべるとコーヒーが飲みたくなるね、昨日は打ち合わせその1のルノワールで、もう疲れすぎててコーヒー頼む気がしなくて、ハチミツの入ったアイスティーを注文したんだ、なかなかおいしかったな、ルノワールの店員さんって親切だね、2 時間くらいの打ち合わせのあいだに、水、10杯くらいついでくれて、お茶も三杯くらいもってきてくれた、ありがとう、ひとと喋るとのどがかわくね、水くれるとのどもからだもこころもよろこぶね、ありがとう、ルノワールの店員さん、

8 時 23 分、そろそろしたくしなくちゃね、この日記、じゃなかった、分記も、どこかでふんぎりつけないと、ん、日本語あってる、そろそろ松田さんから進捗伺いのメール来ちゃうんじゃないかな、しめきり、あー、なんかこの日記、じゃなかった、分記、やはりファーストリーダーである松田さんに向けて書いてて、どうして日記の提出が遅れたかってことを説明するための日記、じゃなかった分記、なんじゃないかな、これは、そう見えますか、松田さん?

8 時 24 分、これだけお世話になってるのだから、そろそろ松田さんのために、というのは松田さんに捧げる詩なんてのも一篇、まじめなやつね、書いてもっていうか書いたほうがいいんじゃなかって気がしてきた、こんないいわけめいた日記、じゃなかった分記じゃなくてね、どうですか、要りますか、松田さん?

8 時 26 分、ほんとうに、そろそろしたくして送りださないと、しばらくしたら戻ってきますね、ほんとすみません、松田さん、

8 時 27 分、あと、ルノワールの店員さんのためにも詩を書きたいよね、
8 時 28 分、では、しばしお待ちを、

*

わかった、わかったよ
きょう、いかなくていいよ
うえのこも きょうはやすみ あしたも あさっても とおかかん おやすみ

きのう ひるごろ とつぜんかえってきた
がっこうのせんせい ころなになっちゃったんだって
たんにん? たんにんじゃない 
それでとりあえずきょうはいっせいそうたい
れんらくがきた むかえにきてください
とりあえずあしたはおやすみ
あさっていこうは あとでれんらくします
けんさひつようなせいとには こべつにれんらくしています
このじかんまででれんらくがないかたは けんさはふようです
くがつ じゅうしちにちまで きゅうこうとします
え、このくそいそがしいのにどうするん?
なんとかなるか なんとかするしかない しかたない
しかたないよね
しかたない いいよ きょうは きみも

*

こんな日記、じゃなかった分記をえんえん書いてるあいだに、片付けられた仕事がいくつもあったのだけど、これは大事な日記、じゃなかった分記なんだ。彼女は日記を書くのが趣味であった。日記を書く時間が毎日、すこしずつ長くなっていって、気づけば一日の半分を日記を書くのに費やすようになり、やがて一日の三分の二を日記を書くのに費やすようになり、ついには二十四時間を、日記を書くのに費やすようになった。つまり、寝ている間も、夢の中でも、彼女は日記を書いていて、

彼女はいつもふたつの日記を書いている、ひとつは現実の日記、もうひとつは夢の中の日記、現実の日記に夢の中のことを書くこともあるし、その逆、つまり夢の中の日記に現実のことを書くこともある、現実の日記の中の夢の記述の註釈が夢の日記に付されていたり、夢の日記の中の現実の記述の英訳が現実の日記に付されていたりもする、

マクドナルドのハッピーセットのおまけだとおもうのだけど、おもちゃのドラえもんの人形の、帽子がぬげていて、ドラえもんの青くてまるい、頭頂から紐が出ていて、その紐を帽子に開いている穴に通さないと帽子を被れないのだが、それがなかなか通らない、

現実の日記と夢の日記の間にもほそい穴が開いていて、往来することもできるのだが、それは細い糸なので、意外と通するのが、通るのが難しい、

*

13 時 58 分(9 月 7 日)、このあと打ち合わせのスタッフのN島さんからライン来て、今日 W 田さんとわたしが在宅に切り替えたので、Kエさんも横浜まで来てもらうのあれなので、東京駅あたりでどうですか、といった内容で、わたしは、せっかく在宅に切り替えたのだからオンラインでどうですか?と聞いたのだけど、きょうは対面で、ということになって、その理由はあとでわかったのだけど、W 田さんがもうモニターが見れないのだったし、やはり対面だといろいろなことがするする決まる、そういえば、この W 田さん、N 島さん、S 藤さんと、オンラインではずっとひんぱんに会っていたのだけど、現実で会うのはいつぶりだったろう、何か月ぶり?もはや現実とオンラインの区別がつかなくなっている、現実と夢の区別がつかないみたいに、

17 時 33 分(9 月 7 日)、打ち合わせ場所に指定してくれた、有楽町のルノワールにつくと、N 島さんすでにパソコンひろげてて、現実ではひさしぶりに会った、会えた、あとから S 藤さんも W 田さんもやってきて、ひさしぶりに会えた、うれしいな、うれしかったな、顔がつかれてますねーっていわれて、疲れてるよーって、つかれすぎててコーヒー飲む気しないもん、それで、ハチミツの入ったアイスティー注文して、ルノワールの店員さん、お水なくなるとすぐにあたらしく注いでくれる、そのうちお茶もくれる、ひとと話すと喉がかわくね、たくさん話すと、するする決まるね、実際あうと、あえてうれしかったよ、水、いっぱい注いでくれて、うれしかったよ、

20 時 16 分、日比谷駅発の日比谷線に乗って、横浜、日本大通りに向かう、電車の中でさっき頼んだ翻訳の件で、今朝送った原稿の件で、C さん、Y 木さんにメール、ライン、着いたら象の鼻テラスでつぎの打ち合わせ、結局この時間に、このためだけに横浜に行くことになったけど、このためだけだったらリスケしてくれてよかったのにって恐縮されちゃったけど、横浜に行きたかったんだ、海が見たくてね、ほら、この三日間、山ばかり見てたから、山ばかり見てると海が見たくなるよね、逆もしかりだよね、

21 時 15 分、日本大通り駅について、象の鼻テラスに向かう、大さん橋に入る道を左に折れると、赤レンガ越しに、みなとみらいの夜景が広がっていて、きれいだね、なつかしいね、

9 時 3 分(9 月 8 日)、あ、それでおもいだしたよ、なつかさんの、草野なつかさんの映画の一日だけの上映会、池袋の、昨日オンライン予約しようとして、途中で時間なくなっちゃって、そのままになっちゃってて、まだ席あるかな、いまから予約しちゃおうかな、いやでも、この日記、じゃなかった分記、そろそろ書き終えて松田さんに送らないと、ですよね、松田さん?

9 時 4 分、昨日の 21 時 23 分、象の鼻テラスに向かいながら、わたしもう、くたくただったんだど、横浜の、みなとみらいの、夜景がめちゃくちゃきれいでさ、夜の海、夜の海にみなとみらいの夜景が映って、夜の海のみなとみらいのひかりたち、ゆらゆらゆれてて、たゆたっていて、みらいのいろとりどりのひかりたち、きれいだね、

9 時 7 分、って書いたところで、冗談みたいなほんとの話なんだけどさ、うんちでちゃったって、おむつかえなくちゃって、ちょっと、いってくるね、ついでに一本電話もかけとかないと、

*

9 時 28 分、おむつかえたら、なんととつぜん、ひるがえって、いくって、いってくれて、いまかえってきた、よかった、いま、9 時 28 分、もうすぐ 29 分か、そろそろこれ書き終えて、松田さんに送って、仕事しないと、てか、これもうかれこれ起き抜けから 3 時間くらい書いてるんじゃないか、あー、日記書くことが仕事になったらいいのにね!

9 時 30 分、それでどこまで書いたんだったったっけ、さっきのとこ読み返すよ、えっと、

9 時 31 分、昨日の 21 時 29 分、象の鼻テラスについて、今日の打ち合わせその 2、H もとさんと N ぐもさんと、ちゃんとまじめに打ち合わせしてちゃくちゃくと決まっていくのだけど、あれこれ脱線して、なんだかめちゃくちゃ笑ったな、さっきのルノワールもだけど、めちゃくちゃ笑ったよ、顔あわせてのうちあわせっていいね、 ZOOM でもけっこう笑ってるけどさ、なにがそんなにおかしいんだろうね、ひとと会うだけでおかしいんだよ、楽しいんだよ、ね、楽しいと嬉しいって手話、おんなじなんだ、そんな話もきのうしてたよね、楽しくて嬉しかったよ、

9 時 34 分、それで終電の時間調べたら、23 時 16 分で、23 時 5 分くらいにあわてて象の鼻をとびだして、雨はもう降ってなかった、またねって、ひきつづきよろしくおねがいしますって、松田さんほら、これ、この昨夜の横浜のうちあわせ、象の鼻のお仕事なんで!

9 時 36 分、昨日の 23 時 16 分、それでみなとみらい線にのって、横浜からそのまま東急東横線に変わるんだけど、そのまま乗ってれば、しばらく乗ってると中目黒につく、中目黒で乗り換えて、日比谷線、日比谷線で茅場町、茅場町で東西線に乗り換えて、あとひと駅でうちの駅で、東急東横線で、おおきな川を渡る、潜らないで渡る、あれは多摩川かな、多摩川を渡る。茅場町と門前仲町のあいだでは、隅田川を渡る、渡るっていうか潜る、潜って渡る、

23 時 59 分、9 月 7 日の日記のラストシーンにあたるのだけど、私はその時刻はもう日比谷線かな、日比谷線にのってて、六本木か神谷町のあたりかな、わたしはもう疲れ切ってて、もうメールもラインも送る元気もなくて、バッグに4,5冊入ってる本をひらく元気もなくて、ただぼけーっと電車にゆられてて、そうだ、

24 時 00 分、日記のしめきりが来てしまう、しかしいまの私に日記を書く元気がなくて、だってまだ夕食だって食べてないんだ、いったん寝て、起きぬけにがんばろうとおもう、

24 時 27 分、駅前の松屋に入って牛丼を注文する、

9 時 43 分、そろそろこの日記、というか分記を書き終えて、松田さんに送らなくてはいけないのだが、これ、読み返したほうがいいんだろうか、読み返さずにそのまま出しちゃおうか、そのままでいっか、こんな日記だれが読むのか、あー、わたしももっとしゅっとした日記を書いたなら、アナウンサーに読んでもらったり、新聞記事に引用されたりしてもらえるんだろうか、でもいいんだ、これがわたしの日記なんだ、わたしの日記をわたしが書かなくてだれが書く?わたしの日記はわたしにしか書けない、あたりまえだけどね、アナウンサーの日記をわたしが書けないように、新聞記者の日記をわたしが書けないように、だから、わたしはアナウンサーの日記が、新聞記者の日記が読みたいな、日記っていうか、分記みたいな、彼女たち彼たちの、どうでもいい、ささいなことが知りたいんだ、どんなことが気になって、どんなふうに時間に追われて、どんなことが楽しくて、どんなことが嬉しいか、詩のふりした気取った「日記」じゃなくってさ、そのひとの声が聞こえてくるような、あなたの声が聞きたいんだ、あなたたちの素の声が、だけどなかなか聞こえこなくてさ、うん、だったら自分から先にこころをひらかないとなって、たぶんそんなようなことをかんがえてるんだよ、最近ね、昔は無口で有名だったんだけど、すっかりおしゃべりになっちゃった、そう、先週四十になったんだよ、四十になると、なにかのタガが外れるのかな、じっかんとしてはさ、四十っていうより、自分のなかに二十歳がふたりいるってかんじかな、あるいは二十歳のやつと、十七のやつと、五つくらいのやつが、同居してるって感じかな、あれ、計算あってる?

9 時 50 分、日記を書くのにももうほとほと疲れちゃってたんだけど、分記だったら書けるね、とりあえずいくらでも書いてられるよ、いくらでも書いてないで、とっとと松田さんに送りなさいよ、

9 時 53 分、そろそろ仕事はじめるよ、こんな感じでさ、お喋りするみたいな感じで、メールも気楽に打てたらいいのにね、とりあえず午前中に十五本くらい、送れるかな、待ってて、この日記、じゃなかった分記は読み返さないでそのまま送ります、ライブレコーディングね、昨日出した 800 字くらいの原稿は 5 時間くらいかけて 50 回くらい読み返したんだけどね、まあ、そうやってバランスとってるってわけ、え、ぜんぜんとれてないじゃん?って、うん、じぶんでもそうおもうよ、なんだか、昨日のことがひどくなつかしいな、あ、

9 時 54 分、そうだった、なつかさんの映画の予約!

東京・深川
カニエ・ナハ