9月6日(日)

ある晩、子ダヌキに出会った
マンションの入口の階段で
ネコかと思ったら、目の下にくまが
おどろきもせず、みどりの瞳でわたしを見返し、
ひょっとあたまを掻いてから、植込みへもぐった
しばらく並んで歩いたのさ
尾っぽのふさが覗けたよ、草のすき間から
横浜市街で、いまタヌキと散歩しているのは
わたしだけ、と有頂天になったが、

ベランダの手すりにとまる雄々しいトンビ
プランターの葉を食べにきた青ヒゲのカミキリムシ
公園には、顔なじみのハシブトガラスの親子もいて、
旅をしないコロナ禍の夏
近所のいきものが、ようやく、身に染みるようになって、

貧しい自然
殺伐なほどコンクリートにおとしめられたが、
どう足掻こうと
どこであろうと、その「内側」なんじゃないのか

穴ポコだらけの石山さ、
湾岸に立つマンションの大群も
つつましく寝起きするなりわいが
サボテンみたいに、はびこって、

ゆうべ、コオロギが鳴いたよ
高層階のベランダで、空気をうるおすように、
ステイホームがにわかに増やした植木鉢を
つたってきたんじゃないか
よじ登ってきたんだよ、この石山を

そうさ、おどろかなかった
タヌキも、トンビも、
かれらは、とうにこっちを見ていた

手も足もでない
手も足もない
サボテンたちは、うなされる
いつか、
すべてが、
狸穴(まみあな)にかえる夢
草ぼうぼうぼう

神奈川・横浜
新井高子