8月20日(木)

コロナで遠方へ出られない夏休みに
実家の子供部屋を整理することになった
まず段ボール箱を60箱発注
箱と言っても折りたたんだ板。
腰の高さまで重なっている

子供部屋は30歳で出奔したときのまま
黒くよどんで埃が積もっていた
学生時代の教科書
学生時代に影響を受けた生物の本
学生時代に買いそろえた脳科学の本
アウトドアの本、地図、エッセイ集、詩集歌集哲学書。
棚一杯の文庫本。古今東西の名作。椎名誠全部。
木山捷平。安岡章太郎。赤瀬川原平。開高健。
なんだかわからないコピーの束。
なんだかわからない書類の束。
そしてこれは幼年時代の日記。
これもそうだ。
これもまた。
親切な子孫がいつか
書物にしてくれる
そのような幸運にめぐまれるか
まったく誰にもわからないが
箱にまとめてとっておこう

家も建てて
五十年が経つと
もはや屋敷神のようなものが住みついて
人間たちの去来をみまもっている
入れ替わり立ち代わり
生まれ変わり死に変わり
いろいろな方面の《教養》を摂取して
さまざまな《仕事》を残していく

著者として、あるいは編集者として
それぞれがつくった
大量の本。

この家を建てた
父も
母も
もはやこの世のものではない。そのかわり今は
新しく家族四名がうごめいている
この家に激しくエネルギーが流れ始めた。
今は。
そうだ。
本を出そう。新しい本を。
そうしてこの部屋はもうきれいに片づけて
子供たちに使わせよう

東京・西荻窪
田中庸介