7月14日(火)

雨が世界を打擲する
この世の半分が流されていく
災害の危険が切迫しており、自治体が強く避難を求めています
洪水警報避難指示が連呼される夜
ひとりで
ラジオの災害速報を聴いている
豪雨でたくさんの土地が流された
人もたくさん流されていった
見覚えのある看板や家屋
たいせつなものが数多流されて消えた

チューニングが乱れてノイズの向こうから
ふるい深夜ラジオの音声が流れてきた
氾濫した濁流に押し流されてきた前世紀の電波だった
断続的なノイズの連鎖に(波打ち際の星がまだ青かったころの記憶
口のない者の声は
波の音によく似ている
こうして余白から瓦礫が
耳鳴りのように打ち寄せられるのだった
失われたものがおびただしく漂着する
目をそらしていたもの(たとえば死せる魂や盲目の恐怖
かれらが背後から見つめている
黒い影こそが寄り添っている黒い影だ、と

激しい雨音の向こうからだれかが
昨日まで地球の夢を見ていただろとささやくのだった

福岡市・薬院
渡辺玄英