7月9日(木)

雨が日付境界線も溶かすように降って
もういつから降っていたのかが思い出せない

土地に流れる川は数年にわたって、
何度も何度もたくさんの雨を呑み込んで、
その度に幅も流れも手を加えられ、
雨は川の中にとりこめるはずだったのに
またその川が溢れだした

水が
道路をえぐることも
流木を押し流すことも
ただただ家も人も全てを呑み込んでしまうことも
もう知っている私は
またありったけのお金をビニール袋に入れて
2階の寝室の枕元に置いた

ダムの貯水率と
川の水位と
一つの灯りだけが照らす道路を
見て
冠水していないなら夜明けまでは呑み込まないよと

橋を覆いつくした激流が横に
地面を打ち付ける雨粒が縦に
無関係に鳴き続ける虫が膜みたいに
響いて
虫が鳴いているなら大丈夫なんじゃないかなと

何も知らなくて怯えていた頃よりは
ほんの少しだけ上手に眠ることができるようになった

濁流が山の木を流して
橋に引っかかり
流木が立ち上がり続ける

あの激流を
止まらない雨を
けぶる山を
現実だと知っている

この激しさも
穏やかさも
潤いも
育ち行く稲も
縦横無尽に動くカタツムリも
オクラの苗に群がるスズメも
全てだ
全ての中にここにいるんだ

切り離せるなんて思うのが
大間違いだ
そういう中の全部にここにいるんだ

本当に本当に気を付けてください
命を守る行動をとってください
今まで経験したことのない雨がまた来ます
と言われたその日の朝は晴れていた

6歳のきいちゃんは
いつの間にかゴジラの曲を弾けるようになって
午後になってから強く降り出した雨を
新しい傘に弾かせて笑っていた

きいちゃん、道路に出ないでね、危ないよ

ねえ、雨、楽しいね

そうだね、でも今日は怖いよ
すごく怖いよ

大分・耶馬渓
藤倉めぐみ