6月25日(木)

マスクがあまったら
このポストに入れてください。
そして
マスクがほしい人は
自由にもっていってください。

まちの郵便ポストのそばに
マスクポストができました。

買い過ぎてあまったマスクや
色とりどりの手作りマスクが
(おばあちゃんも大活躍して)
ポストにたくさん集まりました。

もう、だいじょうぶ。

ワクチンを開発したいのですが
お金と研究者の人手が足りません、と
呼びかけたら

「わたしは何にもないけど
お金だけは一杯あるんですよ」と
世界中のお金をもっているひとから
たくさん寄付が集まりました。

「わたしはお金はないけど
研究だけは自信があるんですよ」と
世界中から研究者もたくさん集まりました。

もう、だいじょうぶ。

3人寄れば文殊の知恵
といいますが――なんと
世界中の知恵が一堂に集まったものだから
(今回ばかりは世界中のどの国も
他人事ではなかったからです)
あっと言う間に

ウイルスを退治する画期的な
ワクチンが発明されたのでした。

もう、だいじょうぶ。

以前なら
内緒にして、ひと儲けしたいなという
気持ちも(ふつふつ)わきましたが

以前なら
肝のところは、わたしの発見だよと
自慢したくて(もやもや)もしましたが。

今回ばかりは、ぜんいんが
「はやく、ワクチンを」ただ
その思いひとつで、がんばったのでした。

なので
「できた!」と声があがったときは
世界中でたくさんの拍手がわきおこりました。
(黒い手も白い手も黄色い手も
兵士たちも銃を置いて、喧嘩していた若者も
振り上げた拳をひらいて、大きな拍手です)

これは
誰のワクチンでもない、みんなのワクチンだ。
そうだ、異議なし!
ということで、ぜんいん一致で、話がまとまり

世界中で、いっせーのせで
無料でワクチンが配られることになりました。

すると、誰もが
マスクの時のように、長蛇の列になることもなく
われ先にと、おたがいを押しのけ合うこともなく

あなたからどうぞ、いえいえ
あなたのほうが大変そうだから、どうぞお先にと
ひととして、あたり前のことができるのでした。

ひとがひととして
あたり前のことができるようになった頃。
ひとでなしウイルスと呼ばれたおそろしい感染症も
だんだんと世界から収束しはじめました。

みぎだひだりだ、きただみなみだと、さんざん
いがみ合ったり、ののしり合ったりした人びとが

満ち欠けをわすれた白い月のように
大きなマスクの下で隠されていたのは、そうだ
この笑顔だったんだと、にわかに気づいたとき。

大切なのは、あなたと
戦うことではなくて、あなたと
助け合うことだったと、やっと知ることができました。

なので
今までは、殺し屋ウイルスと呼んでいたけど
あれは、ほんとうは
愛のウイルスだったねと、わらって囁きあいました。
(マスクのないくちで)

おしまい。

***
きょうは、昼間から
そんな夢を、みてました。

一年で、一番晴れない日が
6月25日、の今日だそうです。
そして、なんと
あしたが、晴れ女でゆうめいな、あたしの誕生日です。

めでたし、めでたし。

埼玉・飯能
宮尾節子