6月3日(水)

ゆめの
てのひらがわたしに触れた
汗に湿った指がやわらかく動いて
頬をなぞり唇へ
わたしのマスクはどこかに消えてしまったから(夢だから
とてもこわい
どうしてこわいとおもわなくちゃいけないんだろう
おもいだせなくて(夢だから
体の遠くで鳴り響く叫びに似た警告を
踏みにじって触れあわせる唇から
うつくしい蜘蛛の糸のように唾液がつながって
死へと近づいていく
すりる
きもちよかった
うそだけどね

目が覚めて手を洗う
てのひらを泡だらけにして擦りあわせて30秒
ハッピーバースデーを2回分だっけ
でも「Mad World」のハッピーバースデーしか出てこない
Happy birthday,Happy birthday
それからなんだっけ(Adam Lambertの歌声で思い出す
The dreams in which I’m dying are the best I’ve ever had.
もう長いこと他人に触れてなどいないてのひらは
おかしくも悲しくもなく
さっぱりと洗いあげられる
きのう東京アラートでどこかが赤くなったらしいけど
なんのことかひとつもわからない
さあ
今日もきれいにくるった世界へ
生まれ出ていこう
うそだけどね

コンビニのレジのひとは
ゆめのなかみたいに透明なビニールに隔てられ
わたしたちはすべて汚れているという前提で
紙幣や硬貨と
パッケージされた食べ物や飲み物を
受け渡して(ありがとう
生きていく(おやすみなさい
今夜
どこにもいないこいびとが
訪れたときのためにあの透明なビニールがほしい
両側からてのひらをあわせて
それぞれの唇のかたちに透明を歪ませて
口づけをしよう
すてき
かもしれない
うそだけどね
わたしたちが透明に隔てられていなかったことなんて
きっとこれまでに一度もなかった

テレビの向こうで話されていることも
告げられる数字もすべて
うそにきこえる
うそだったね
うそなんだね
隔てられて触れあわないままここに
いる

東京・神宮前
川口晴美